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文句のつけようがないくらい、文化祭当日は快晴だった。
少しくらい些細な雲があった方が眺めがいがあるのに。
いつも帰宅部会が行われている埃っぽい空き教室。
文化祭でもこの教室は使われない。
あーあ、やっぱり休めばよかった、なんて。
そう思ったが、あの生意気な後輩の言葉にうまく操作されてしまった気がして腹が立つので、俺は俺の意思で文化祭に来たんだと言い聞かせることにした。
「晴れましたね、今日」
「…水馬」
もはやこの男に見つからないことを願ったのに、いとも容易くその戸を開けて入ってきた水馬。
「なんでここにいるって分かった」
「簡単ですよ」
にこりと笑った水馬が人差し指を天井に向ける。
「こんな騒がしい一日の始まりに、先輩みたいな一人でいたい人間が逃げこむのは、汚くて、誰も近づかない、埃っぽい場所で、ついでに空が綺麗に見えるここ、空き教室です」
「へっぽこ探偵」
「誰がへっぽこ探偵ですか」
軽く笑いながらそう言って俺のそばに歩いてきた水馬が横に立って窓の外を眺める。
そして揶揄うように空を覗き込むようにして見た。
「今日は何の面白みもない空ですね」
「…やっぱ休めばよかった」
「俺のために来てくれたんですか?」
その瞳が俺に向く。よくそんなことを聞けるものだと思った。またケンカを売っているのか。
何も答えない俺に水馬が少し近づく。
「先輩が来ると俺が楽しいって言ったから?」
「違う」
「ふうん、ま、いいや」
その瞳が逸らされて、ほっと安堵する。俺のために?なんて質問に頷けばまたこいつにケンカを売る材料を与えてしまうに決まっている。絶対やだ。
「先輩のクラスって結局何やるんですか?」
「それぞれが美術の時間に描いた風景画の展示」
「へえ、先輩のもあるんですか?」
「…見に来なくていいよ」
「あとで一緒に行きましょうよ」
「嫌に決まってんだろ」
ふいっと顔を逸らして、俺は再度空を瞳に向けた。
何も面白みのない空だと思っていたが、映った視界の端に薄い白が見えた。
「あ」
「なんですか?」
「いや、なんでも」
「気になるじゃないですか、なんですか、空ですか?」
「うるさいな、近い」
「同じ目線じゃないと見えないんですよ」
窓の下枠に手をついて俺に身を寄せた水馬が空を見る。同じ目線じゃないと、見えない。そんな些細な言葉がやけに脳裏にこびりつく。
水馬の口から「あ」と声がもれる。
「あれですか?あの薄い雲。へえ、『雲ひとつない空』とかよく言いますけど、今日は雲ありますね」
ね、とその瞳が俺に向く。目が一瞬あってすぐに逸らした。そして誤魔化すように空を見る。逃げ道に空を使っていることがなんとも解せない。
「けんうん」
「けんうん?あの雲の名前ですか?」
「…巻くに、雲で、巻雲」
「土坂先輩、物知り〜」
「ケンカ売ってんだろ」
「尊敬ですよ尊敬」
揶揄い口調でそう言った水馬にため息をつく。何度も言う、休めばよかった。
水馬から離れて教室の戸の方に歩いていけばやつは着いてくる。
「まさか帰らないですよね」
「お腹減ったからなんか買う」
「楽しむ気満々じゃないですか」
「食べたら帰る」
「ダメです、まだ文化祭始まったばっかですよ先輩」
そう言って俺の手をひいた水馬。誰かによく見せるための貼りつけたような笑みじゃなくて、年相応の屈託のない笑みだった。いつも、そんな顔をしていればいいのに、なんてそんなことを思った。



