飯塚に連れられて来たのは、保健室。
白いカーテンが窓から入ってくる風で揺れる。
「先生、いないね」
いつもなら、胸の大きなグラマラスな先生がそこに座っているのだが、今は不在なようだ。
「ホームルーム前に、教員会議があるんだと。その間、勝手に寝てて良いって言われてる」
「そ、そっか。飯塚は、保健の先生とも親しいんだね」
平常を装うが、今は飯塚と二人きり。手汗が出て来た。
「結城、体調大丈夫? 風邪って聞いたけど」
「あ、うん。もう平気。心配してくれたんだ?」
「そりゃあな。クラスメイトだし」
「ありがとう」
素直に礼を述べれば、飯塚が鞄に手を入れた。そこから出て来たのは、案の定、チョコの入っているであろう箱だ。それは、綺麗にラッピングされて、リボンまで付いている。
「結城、これ」
「えっと、これは?」
ひとまず惚けながら受け取った。
「俺、結城のことが好きなんだ。付き合って欲しい」
率直に告白され、困惑する。その反面、少し嬉しいと思ってしまった。冴島にアプローチされる前なら、首を縦に振っていたかもしれない。
「えっと、気持ちは嬉しいけど……」
誠実にお断りしようとすれば、肩をトンッと前から押された。
「……え?」
僕の体は後ろに傾いた。倒れた僕の後ろには、幸いなことに真っ白のシーツがかかったベッドがあった。
前言撤回だ。幸いではなかった。飯塚が、ベッドを遮るカーテンをシャッと閉め、僕の上に跨って来た。
「い、飯塚……?」
「うちの高校のバレンタイン、知ってんだろ? 答えがノーの場合」
答えがノーの場合、断られた者は引き下がるのかと思いきや、ほぼほぼ引き下がらない。むしろ、自分の魅力をアピールしようと二人きりになり、発情期真っ只中の野獣の如く襲ってくる。
飯塚は、ニヤリと笑った。
「今から、俺なしじゃいられないよう、調教してやるよ」
「ちょ、調教って……」
「嫌なら、イエスって言うんだな」
これは、まずいことになってしまった。朝のホームルームが始まるまで残り二十分もある。
かろうじて逃げられても、この調子では隙を見つけては二人きりになろうとする可能性大だ。そもそも、体格の良い飯塚からは、逃げられないような気がする。男子校のバレンタインを甘く見ていた。
「飯塚、とりあえず、話そ。話せば分かる」
保健室の先生がくるまで、とにかく時間を稼ごう。そう思うが、飯塚は僕を見下ろしながら、ネクタイを緩めた。
「話すよりも、体で覚えさす方が早い」
「い、飯塚はさ、女の子が好きなんだよね? 前にも言ってたじゃん。可愛い彼女が出来たって」
「そんなの、話を盛り上げる為の嘘に決まってんじゃん」
飯塚が僕のブレザーのボタンを外し、ネクタイを緩めてくる。必死に腕を掴んで抵抗するも、びくともしない。
状況のせいかもしれないが、冴島に触れられても嫌悪感はなかったが、飯塚に触られると不快感でいっぱいだ。
「お願い……やめて」
今にも泣きそうに拒絶すれば、飯塚の手がピタリと止まった。
根は良いやつなのだ。やはり、話せば分かる。そう思ったのも一瞬のこと、飯塚は悪戯に笑った。
「へぇ、煽るの上手いじゃん」
「煽ってなんて」
「やっぱ俺、結城好きだわ」
飯塚の顔が首元に埋められた。
もうダメだと心の中で冴島に謝罪した時。
――ガラガラガラ。
扉が開く音がした。
「あら? 誰か来てるの?」
(はぁ……今度こそ助かった)
保健室の先生の声に胸を撫で下ろしていると、飯塚は舌打ちしながら僕から離れた。そして、掛け布団を肩までかけて来た。
「結城君が体調悪いって言ってたんで」
「あら、そう。大丈夫?」
ヒョコッとカーテンの中に顔を見せた保健室の先生は、首元までしっかり掛け布団をかけた僕と、ネクタイを外して第三ボタンまで外した飯塚と、そして、床に落ちているチョコの入った箱を見た。
「これは……お邪魔しちゃった感じかしら?」
「お邪魔しちゃった感じだよ。もう、美桜ちゃん。戻ってくるの早い」
「ごめんね。もう一回、出て行こうか?」
この二人は、相当仲が良いようだ。このままでは、続きが再開されそうで怖い。
「せ、先生!」
ガバッと布団を捲って、僕は急いで乱れた制服を整える。
「僕が出ていくんで、大丈夫です」
「そう? ごめんね」
「チッ」
舌打ちする飯塚は、そそくさと扉から出ようとする僕に、床に落ちたチョコを拾ってポンッと投げて来た。反射的に、僕はそれを受け取った。
「結城、まだまだバレンタインは始まったばかりだから。覚悟しとけよ」
バンッと指鉄砲を撃たれ、僕は初めてバレンタインの恐怖を知った。
一人でこの脅威なのに、冴島は大丈夫だろうか。今頃、数十人の男共に…………考えただけでゾッとする。
僕は教室まで急いだ――。
白いカーテンが窓から入ってくる風で揺れる。
「先生、いないね」
いつもなら、胸の大きなグラマラスな先生がそこに座っているのだが、今は不在なようだ。
「ホームルーム前に、教員会議があるんだと。その間、勝手に寝てて良いって言われてる」
「そ、そっか。飯塚は、保健の先生とも親しいんだね」
平常を装うが、今は飯塚と二人きり。手汗が出て来た。
「結城、体調大丈夫? 風邪って聞いたけど」
「あ、うん。もう平気。心配してくれたんだ?」
「そりゃあな。クラスメイトだし」
「ありがとう」
素直に礼を述べれば、飯塚が鞄に手を入れた。そこから出て来たのは、案の定、チョコの入っているであろう箱だ。それは、綺麗にラッピングされて、リボンまで付いている。
「結城、これ」
「えっと、これは?」
ひとまず惚けながら受け取った。
「俺、結城のことが好きなんだ。付き合って欲しい」
率直に告白され、困惑する。その反面、少し嬉しいと思ってしまった。冴島にアプローチされる前なら、首を縦に振っていたかもしれない。
「えっと、気持ちは嬉しいけど……」
誠実にお断りしようとすれば、肩をトンッと前から押された。
「……え?」
僕の体は後ろに傾いた。倒れた僕の後ろには、幸いなことに真っ白のシーツがかかったベッドがあった。
前言撤回だ。幸いではなかった。飯塚が、ベッドを遮るカーテンをシャッと閉め、僕の上に跨って来た。
「い、飯塚……?」
「うちの高校のバレンタイン、知ってんだろ? 答えがノーの場合」
答えがノーの場合、断られた者は引き下がるのかと思いきや、ほぼほぼ引き下がらない。むしろ、自分の魅力をアピールしようと二人きりになり、発情期真っ只中の野獣の如く襲ってくる。
飯塚は、ニヤリと笑った。
「今から、俺なしじゃいられないよう、調教してやるよ」
「ちょ、調教って……」
「嫌なら、イエスって言うんだな」
これは、まずいことになってしまった。朝のホームルームが始まるまで残り二十分もある。
かろうじて逃げられても、この調子では隙を見つけては二人きりになろうとする可能性大だ。そもそも、体格の良い飯塚からは、逃げられないような気がする。男子校のバレンタインを甘く見ていた。
「飯塚、とりあえず、話そ。話せば分かる」
保健室の先生がくるまで、とにかく時間を稼ごう。そう思うが、飯塚は僕を見下ろしながら、ネクタイを緩めた。
「話すよりも、体で覚えさす方が早い」
「い、飯塚はさ、女の子が好きなんだよね? 前にも言ってたじゃん。可愛い彼女が出来たって」
「そんなの、話を盛り上げる為の嘘に決まってんじゃん」
飯塚が僕のブレザーのボタンを外し、ネクタイを緩めてくる。必死に腕を掴んで抵抗するも、びくともしない。
状況のせいかもしれないが、冴島に触れられても嫌悪感はなかったが、飯塚に触られると不快感でいっぱいだ。
「お願い……やめて」
今にも泣きそうに拒絶すれば、飯塚の手がピタリと止まった。
根は良いやつなのだ。やはり、話せば分かる。そう思ったのも一瞬のこと、飯塚は悪戯に笑った。
「へぇ、煽るの上手いじゃん」
「煽ってなんて」
「やっぱ俺、結城好きだわ」
飯塚の顔が首元に埋められた。
もうダメだと心の中で冴島に謝罪した時。
――ガラガラガラ。
扉が開く音がした。
「あら? 誰か来てるの?」
(はぁ……今度こそ助かった)
保健室の先生の声に胸を撫で下ろしていると、飯塚は舌打ちしながら僕から離れた。そして、掛け布団を肩までかけて来た。
「結城君が体調悪いって言ってたんで」
「あら、そう。大丈夫?」
ヒョコッとカーテンの中に顔を見せた保健室の先生は、首元までしっかり掛け布団をかけた僕と、ネクタイを外して第三ボタンまで外した飯塚と、そして、床に落ちているチョコの入った箱を見た。
「これは……お邪魔しちゃった感じかしら?」
「お邪魔しちゃった感じだよ。もう、美桜ちゃん。戻ってくるの早い」
「ごめんね。もう一回、出て行こうか?」
この二人は、相当仲が良いようだ。このままでは、続きが再開されそうで怖い。
「せ、先生!」
ガバッと布団を捲って、僕は急いで乱れた制服を整える。
「僕が出ていくんで、大丈夫です」
「そう? ごめんね」
「チッ」
舌打ちする飯塚は、そそくさと扉から出ようとする僕に、床に落ちたチョコを拾ってポンッと投げて来た。反射的に、僕はそれを受け取った。
「結城、まだまだバレンタインは始まったばかりだから。覚悟しとけよ」
バンッと指鉄砲を撃たれ、僕は初めてバレンタインの恐怖を知った。
一人でこの脅威なのに、冴島は大丈夫だろうか。今頃、数十人の男共に…………考えただけでゾッとする。
僕は教室まで急いだ――。



