他人に興味がなくて、素っ気なくて、オレを含めた周囲を見下している。
そんな第一印象をあっさり覆すように、徐々に懐いてきたモモは。
「型落ちで悪いけど」
「嬉しいです、ありがとうございます…」
すっぽり頭を覆うヘルメットを両手で撫で付けながら、これ以上頬が綻ばないよう下唇を噛んでいるようだった。
こんなに喜ぶなら、もっとちゃんとしたやつ買ってやれば良かったって思ったり。
「前髪、鬱陶しくない?見えてる?」
「一応見えてますよ。それに俺が運転するわけじゃないし…でも一旦脱ぎます」
曇り空から滲み出る午前の陽に、くしゃくしゃに乱れたモモの髪が光る。
いつもなら直ぐに隠そうとする額までもが淡い。
「ヘアピンあるけどいる?」
「いらないです、ハチさんこそ髪切った方がいいですよ」
「時間がないからいいの」
「休日まで使って俺と遊んでるのに?」
「練習しといた方がいいだろ、結構後ろ乗ってるの大変だぞ」
ネックウォーマーでその生意気な口元まで覆って、いよいよ肌面積が僅かしかなくなってしまった。
再びヘルメットを被ってスッと目を細めるモモと、黒いシールド越しに目が合う。
「後ろ、よく乗ってたんですか?」
「んや、教習所で乗せてもらったくらい。前見えなくて不安だし暇だし良いもんではない」
「そんなこと俺にさせようとしてるんですね」
「そうだよ、乗ってみて」
モモが軽く跨がった瞬間、車体が沈む。
「結構揺れますね」
「上下は仕方ないかな…座席の隙間に掴むところあるの分かる?」
「分かります」
黒い革のグローブを嵌めた大きな手が、隙間にぎゅうぎゅうに収まるのを見届けて、オレもヘルメットを被る。
「出ていい?」
返事の代わりに頷いたのが、少しの衝撃としてヘルメットに伝わった。
握り締めるグリップ、少しだけ攣りそうな親指で押したエンジンボタン。
身体に響く振動と、モモの体重分だけ負荷の掛かる足首。
でもそれも一瞬で、直ぐにいつも通り…だと、思ったのだけど。
「運転しにくいわ」
自分より体格が良い人間を乗せたのは初めてで、想像以上に振られる。
直ぐに停車したオレを不審がるように頭を寄せてくるモモ。
「身体、もっとくっつけて」
おずおずとジャケットの脇を掴んできた手を引き剥がし、ガッツリ腹の前で交差させて。
まだ遠慮がちなそこをポンポンと軽く叩くと、漸く力が入ってきた。
「出るよ」
「はーい…」
ひたりと、密着された背中。
背もたれにもならないし、もぞもぞするし、生暖かいし。
背もたれになるほど安定もしてないし。
「でも結構いいね」
「そーですか…」
揺れる度にカツカツ当たるヘルメット同士、少し間延びしたようなモモの声が聞こえるくらいの距離。
服の隙間に入り込んでくる冷たい風も、ずっとバランス取らなきゃっていう緊張感も、好き。
市立図書館行って一緒に課題して帰ってまた明日…に、なる予定だったんだけど。
「大丈夫?」
ほんの、たぶん10分くらい。
赤信号で停車したオレの服を引っ張るモモが、首を左右に振る。
「酔った?」
「いやそんなことは無くて、思ったより早いなって言うか…曲げたままの脚がしんどいです」
「さり気なく脚長アピールしてる元気はあるって事だな」
観光客向けに整備された異常に広いコンビニの駐車場、その片隅。
「身長差あるから妥当ですよ」
「数cmしか変わらないだろ…」
自販機のボタンを押して出てきた無糖の紅茶。
水筒の中身を飲み干したモモがいつも買っている、オーソドックスな赤いラベルのペットボトルを手渡す。
「ありがとうございます、払います」
「いいよ、寧ろこの時期は車も軽トラも出払っててさ、ごめんな。一時間…無理かな?」
過去に、自分が上級生からされて嬉しかったことを、そのままそっくりしていることに、少しだけ嫌気が差した。
気遣いの連鎖、という綺麗な言葉を隠れ蓑にしたこの感情。
「ちゃんとその日は準備と心構えしておくので…バイクがいいです…」
「そう?悪いな」
行き場を失った庇護欲を、モモで満たしている。
あのひとのしてくれた事をなぞる、そんな自傷めいたことが、残されている唯一の繋がりだから。
「回復したので大丈夫です、続きしましょ」
「帰ってもいいよ?」
「嫌です」
「むくれるなよ、可愛いやつ」
あのひとにも、こんな表情をオレは向けていたのだろうか。
