FRESH(注:煩悩及び執着含む)

「夏になったらどうなるんですか?」
「丁度摘果する頃かな…、暑さ的には地獄」
「じゃあこんなしてても全く寒くないって事ですね」
「あ、こら、やめ!」

倉庫の真横に積み上げられた、オレンジ色のコンテナ。
それらを洗うためにモモに持たせていたホースの先が、向けられる。
サッと避けたけど、水分を含んで重くなってしまった袖。

「びっしょびしょ…どうすんのこれ…」
「水も滴るなんとやらと言いますね」
「ならモモの方が似合うんじゃね?」
「え、それ反則…!」

奪い返したホースにノズルを付けて、確実にモモの身体に水をかけていく。

「モモ、寒い?」
「寒くないけど、ちょっと水圧強くないですか!?」
「うちに犬いた頃はさ、コレするとめっちゃ喜んでたんだよなぁー」
「俺は、犬じゃないんですけど?」

ふと気付いたように、真っ直ぐオレの方に向かってくる。
さっきまで逃げてたのに。

「どうせ濡れるなら逃げるより元を断つ方が早かったですね…」
「賢いなぁモモは」
「まだ犬扱いするんですか?」

ダバダバと腹から流れ続ける水も完全無視して、オレの手からホースを引き剥がすモモ。

「いい男になっただろ?」
「それはハチさんの目を通さないと分からないですね…」
「あ、こらストップ」
「仕返ししますね」
「冷たっ!シャツ伸びる!」

逃げようとした背を掴まれて、襟首から注ぎ込まれる水。
外水道は井戸水を汲み上げているから冷たい。

「あー、もう、ほんとバカ」
「水遊び好きですよね、元水泳部だし」
「これは違うだろっ」

ギュッと元栓を閉めて漸く大人しくなるホース。

「長靴に水溜まって気持ち悪い」

ひんやりと冷たくなったであろうモモの手が、耳の後ろから伸びてきた。
そのまま目の前の壁に添えられた、健康的に焼けた肌。

「どうした?」
「ん…昨日キスできなかったなって」
「しただろ」
「え?」
「したよな?」

どこに、とは言わない。

「寝込みを襲われた…?」
「少しだけ」
「ちょっと再現してもらえます?」
「いいよ」

完全にキョドってる隙をついて、モモの唇に指先を押し付ける。

「何…?」
「再現。寝てる時のほうがやわこいな」
「…ずるい」

モモの手に手首を掴まれる。
想像通り冷たく濡れた指先。

「好き、です…」
「…なんでオレなの?」
「…こればっかりは理屈じゃないですね」

応えてしまえば楽になるのは、たぶんそう。

「オレめっちゃ重いし、元カレ引き摺ってるし…」
「知ってますよ、大抵の場合元恋人のジャージなんか恨み辛みで即ゴミ行きなので」
「そうだよな」

モモの髪を伝って溢れてきた、モモの体温で少しだけ温まった水。

「いいんじゃないですか」
「いいの?」
「別に少し妬くくらいなので…それに返事今すぐ欲しいって訳でもないです」

立てたままの人差し指。
1は、あのひとそのものの数。

「これから卒業まで2年半以上あるし、そのうちその感情の9割は俺に向くと思いますよ」
「…大した自信だな」
「ちゃんと卒業させてあげますね」

卒業を条件に2回キスしてもらったのは、もう1年以上前。
過去の自分は愚かだけど、嫌いではない。

「…はやく仕事終わらせて帰ろ」
「ふふ、顔赤いですよ」
「モモもだよ…」

真っ直ぐ向けられる好意に、すこしだけ目を逸らした。

「ハチさん、俺の中学のジャージあげます」
「あの新しいやつ?」
「はい。なので、あの倉庫のジャージはご実家に置いていきましょう」
「…オレのシェルターなのに?」
「どうせなら一ノ瀬を纏って欲しいという劣情です、そしてシェルターなら生身の俺がいるので」

モモの腕が腰に回り、ぴたりと密着してくる。

「…何してんの?」
「帰りの練習。安心感ありますよね?」
「それは今しなくてもいいやつだろ」

肌を伝って垂れてゆく水滴。
モモに密着した所から、じわりと、生暖かい熱が伝わって、下へと流れていった。