【57日後】
夢を見た。内容は朧だったが、紗弓がいた。おれの存在に気づいていないかのように、だれかと話している。男だ。顔はよく見えない。紗弓はその男と笑顔で会話していた。ネイルアートの施された指先が男のシャツの裾をつまんでいる。
叫びそうになったところで目が覚めた。最悪の気分。下着が濡れていた。
監禁されてから約2か月、セックスどころか自慰すらほとんどしていなかった。人体というのは不思議なものだ。生命が脅かされている環境にあってなお、生理現象を抑えることができない。むしろ、危機的状況にあるからこそ、本能が子孫を残そうと脳に刺激を与えているのかもしれない。
下着を脱ぎ、ゴミ袋の奥に押し込んだ。下着も含めた衣類はすべて暖が用意していた。部屋の隅に投げ捨てておけば、勝手に持っていかれる。だれが洗濯しているのか、清潔な着替えがまた提供される。
はじめのうちは、取りにきたところを襲うつもりで、マットレスの周囲に服や生ゴミを放置していた。しかしすぐにやめた。悪臭に耐えられなくなったからだ。換気システムはあるようだが、窓のない地下室は匂いが籠もりやすい。
下着を収めたゴミ袋に鼻を近づける。男の独特の匂いがする。おそらく気づかれるだろう。暖がこの日はやってこないことを願うしかなかった。
テレビもスマホもない小さな部屋に閉じ込められて、最初のうちは気が狂うのではないかと思った。時間の感覚や曜日の感覚がなくなっていくのを感じ、壁に細い線を刻むようになった。あの事故から57日目がたっていた。
4月になり、暖は東京の大学に進学していた。予告していたように、2日に1度はやってきて、洗濯や掃除を済ませ、小型のクーラーボックスに水と食料を入れていく。東京のどこに住んでいるのかは知らないが、自家用車で通っているのだろう。正確な時間はわからないが、あきらかに深夜の時間帯にくることもあった。
そしてそれは、暖の隠蔽工作が成功していることを示していた。暖はうまく死体を隠し、見つからずにいるのだろう。そうでなければ、こうして足繁く通うことも、大学に進学することもできるはずがない。
夢を見た。内容は朧だったが、紗弓がいた。おれの存在に気づいていないかのように、だれかと話している。男だ。顔はよく見えない。紗弓はその男と笑顔で会話していた。ネイルアートの施された指先が男のシャツの裾をつまんでいる。
叫びそうになったところで目が覚めた。最悪の気分。下着が濡れていた。
監禁されてから約2か月、セックスどころか自慰すらほとんどしていなかった。人体というのは不思議なものだ。生命が脅かされている環境にあってなお、生理現象を抑えることができない。むしろ、危機的状況にあるからこそ、本能が子孫を残そうと脳に刺激を与えているのかもしれない。
下着を脱ぎ、ゴミ袋の奥に押し込んだ。下着も含めた衣類はすべて暖が用意していた。部屋の隅に投げ捨てておけば、勝手に持っていかれる。だれが洗濯しているのか、清潔な着替えがまた提供される。
はじめのうちは、取りにきたところを襲うつもりで、マットレスの周囲に服や生ゴミを放置していた。しかしすぐにやめた。悪臭に耐えられなくなったからだ。換気システムはあるようだが、窓のない地下室は匂いが籠もりやすい。
下着を収めたゴミ袋に鼻を近づける。男の独特の匂いがする。おそらく気づかれるだろう。暖がこの日はやってこないことを願うしかなかった。
テレビもスマホもない小さな部屋に閉じ込められて、最初のうちは気が狂うのではないかと思った。時間の感覚や曜日の感覚がなくなっていくのを感じ、壁に細い線を刻むようになった。あの事故から57日目がたっていた。
4月になり、暖は東京の大学に進学していた。予告していたように、2日に1度はやってきて、洗濯や掃除を済ませ、小型のクーラーボックスに水と食料を入れていく。東京のどこに住んでいるのかは知らないが、自家用車で通っているのだろう。正確な時間はわからないが、あきらかに深夜の時間帯にくることもあった。
そしてそれは、暖の隠蔽工作が成功していることを示していた。暖はうまく死体を隠し、見つからずにいるのだろう。そうでなければ、こうして足繁く通うことも、大学に進学することもできるはずがない。


