2225日後

【1877日後】

 不幸なことに、翌日には熱が下がっていた。ただの風邪だったらしく、市販の風邪薬で完治してしまった。翌々日には喉の腫れも消え、食欲ももどっていた。
 暖に対してはまだ体調が悪いと強調したが、何度体温計をつかっても、平熱以上の結果は出なかった。
 おれの回復を暖は喜びも悲しみもしなかった。神妙な顔つきで体温計のディスプレイをにらみつけているだけだった。
 そして次の日、暖は大量のサプリメントを持ってきた。ビタミン、ミネラル、カルシウム、鉄分、亜鉛とあらゆる種類がそろっている。
「こっちのケースは毎食後、こっちは朝」
 プラスチックの容器も準備されている。暖はサプリメントの袋をひとつひとつ開け、種類ごとに小分けにしていった。几帳面なことに、きちんと名称を印刷したシールまで貼りつけている。おれは呆れ果てて暖の作業を見守っていた。
「それから、これ」
 べつの袋から木製の弁当箱を取り出す。野菜の煮物や魚など栄養のバランスが取れた弁当だった。米は五穀米らしい。これまでのピザや寿司とちがって、健康的な食事だった。
「今まで買ってきたものばっかりだったからな。塩分が多かっただろうし、栄養も偏ってた」
「だれにつくらせたんだよ」
 あきらかに店で買ったものではない料理を見て、おれは単純に疑問を感じて尋ねた。暖はこともなげに答えた。
「おれがつくった亅
「……嘘だろ」
 弁当と暖を見較べる。暖が料理をしているところを想像するのはかなり難しかった。
「おまえ料理とかすんの」
「いや、はじめて。レシピ動画見てつくった」
 おれの顔を見て、暖は不服げに眉を顰めた。
「ちゃんと味見したって。食ってみろよ」
 気がすすまなかったが、箸を渡され、魚の照り焼きを一切れつまんだ。不承不承口に運ぶ。想像していたほど悪くなかった。味つけは薄めだが、焼き加減もちょうどいい。なんでも器用にこなせるようだ。無性に腹が立った。
「うまいだろ」
 暖が顔を覗き込んでくる。
「食えなくはない」
「うまいでいいだろ」
 暖が笑う。これまでの唇の端を歪めた厭味な笑い方とはちがう顔だった。子どものような邪気のない素直な笑顔だった。思わず視線を逸らした。
「毒でも入れられたら怖えな」
「そんなことするかよ」
 わかっていた。暖におれを殺す気はない。しかし、これではまるでおれに生きていてほしいかのようだ。暖がなにを考えているのか、ますますわからなくなって、おれは混乱していた。