2225日後

 目覚めると、いつの間にか暖が部屋にいた。椅子に浅くかけて脚を組み、ハードカバーの本を読んでいる。経済書らしい厚い本だ。
「あ、起きた」
 おれが覚醒したのに気づき、本を閉じる。おれは瞼を擦りながら体を起こした。
「起きるの待ってたんだよ。腹減っただろ」
 テーブルの上にはケーキや寿司が並んでいる。
「なに? クリスマス?」
「ちがうよ」
 暖がケーキに蝋燭を差しはじめる。ホワイトチョコレートでできたプレートには『ハッピー・バースデイ しゅんすけ』とあった。
「誕生日だろ」
 おれを椅子に座らせ、ワイングラスを握らせて、暖はいった。
「20歳、おめでとう」
 グラスを合わせる。プラスチック同士が擦れ合い、長閑な音を立てた。
 20歳になったらなにをしようか。どんなおとなになっているだろうか。子どもの頃に考えたことがある。こんなところで誕生日を迎えることになるとは、想像もしていなかった。
「成人式の案内、きた?」
「ああ」
 寿司をつまみながら、暖が頷く。
「みんなくるかな」
「どうかな」
 沈黙。おれはイクラの軍艦巻きを口に入れた。好物だったはずなのに、味がしない。
 暖が蝋燭に火をつけ、照明を落とした。蝋燭の火が暖の満面の笑顔を照らしていた。
「ハッピー・バースデイ・トゥー・ユー」
 暖が歌う声を遠くに聞きながら、おれは目を閉じた。スーツを着て、花束を抱えた自分の姿を想像した。うまくいかなかった。