――それから数日経った五月二十八日の放課後。
僕の部屋に全員集合した。
生クリームとチョコのクリーム、その二つのホールケーキを机の真ん中に置き、僕と浅田で、恥ずかしげもなくハッピーバースデーの歌を歌った。それから、冬也と井草が二人並んでロウソクの火を吹き消した。
「冬也君。井草君。誕生日、おめでとう!」
「おめでとうであります。こちら、自分からのプレゼントであります」
「おめー、って、なんで俺まで強制参加?」
中村は面倒臭そうにしながらも、手を叩いて二人を祝っている。
火を吹き消した井草が、僕に耳打ちしてきた。
「なぁなぁ、これってさ、BLに発展しないよな? 誕生日が一緒で運命感じて……とかさ」
「ははは。それは」
ないんじゃないかな……と言おうとしたところに、浅田がぬっと僕らの後ろに出てきた。
「それは、大いにあり得る話であります」
「え!? マジ!?」
「しかも、どこかキャラが似ております故、共通点も多いのではないでしょうか?」
「共通点……」
井草が、隣に座る冬也を見た。そして、冬也もまた、井草を見る。
視線が交差した二人の共通点を僕は見つけてしまった。
「二人とも、ほっぺのここにホクロあるよ」
「え、マジ!?」
ペタペタと頬を触る井草を呆れた顔で見てから、冬也は僕に向かって手招きしてきた。
「ん? なに?」
「隣、おいで」
その顔は、至極穏やかで、優しい。
若干照れながらも、僕は席を移動して、冬也と中村の間に座った。
「えっと、中村君。先日は、どうも。助かりました」
ぺこりと頭を下げて、命の恩人である中村にチョコレートケーキを取り分けた。
「俺、チョコよりクリームの方が好きなんだけど」
「え、あ、そうなの? ごめん」
一旦下げようとしたその皿を、冬也がスッと取った。
「陽向の取ってくれたものにケチつける奴は、何も食うな」
「はいはい。自分で取れば良いんでしょ。たく、チビのことになると、超が付くほど面倒臭くなるよね」
生クリームのケーキを自分で取り分ける中村を他所に、冬也がチョコレートケーキをフォークで刺して食べた。その顔は無表情で、あまり楽しくないのではないかと心配になる。やはり、後で二人きりの誕生日会も開くべきだろうか。
余談だが、モリーさんが冬也の中に戻ったからといって、冬也の僕への執着心は未だ継続中だ。僕と近くにいることが出来るようになって、以前よりも周囲が見えるようになっただけ。今も隣に座らせているのがその証拠。
とはいえ、僕自身、それを苦と思っていないので、問題はないだろう。
「なんと! こちら、初版本でありますか!?」
浅田が、本棚の漫画を一冊手に取って、歓喜の声をあげた。
「へへ、凄いでしょ。並んで買ったんだよね」
「羨ましいであります。記念撮影させてくださいであります」
浅田が僕の漫画本と記念撮影する姿を見て、思い出した。
腰を少し上げて、後ろにあるベッドの中に隠していた写真二枚を手に取った。
「中村君」
「ん?」
「これ、現像しといたよ」
オレンジジュースが入ったグラスを机に置いた中村に、僕は写真の一枚を手渡した。
中村は、いつになく慌てた様子で、それを自身の体に押し付けるようにして写真が見えないようにした。
「ちょ、なに現像してんの? バカじゃないの!?」
「良いじゃん。格好良いんだから」
僕は、自分用に現像していた中村の狩衣衣装姿の写真を見ながら悦に浸る。
実は、中村とモリーさんと三人で話をした時に、モリーさんは写真に写るのか……という実験をする名目で、ちゃっかり中村のコスプレ姿も撮っていたのだ。モリーさんの姿は、写真には写らなかったため、中村と僕のツーショット写真になっている。
「ふふ、これ、浅田君に見せて」
「来なくて良いから! 病み上がりなんだから、チビは、じっとしてなよ!」
中村に無理やりクリームのケーキを口に突っ込まれた。
「んんッ」
ケーキを頬張っていると、斜め上の方から視線を感じた。
見上げれば、冬也が僕の手元の写真を凝視していた。
「冬也君……」
まずい、中村のコスプレ姿を浅田に見せてあげたくて撮っただけなのに、これは勘違いしている。絶対に勘違いしている。
「陽向」
「あ、いや、これは……」
「間宮氏、どうしたでありますか?」
浅田と井草も写真を覗き込んできた。
「わ、これ、すげぇ。中村って、こんな趣味あったんだ。てか、二人って、仲良かったんだな。やっぱ、前に二人で教室出てったのって……」
「告白でありますか!? ダブルカップルの誕生でありますか!?」
またもやBLの話で盛り上がる浅田と井草。
早く、この妙な誤解を解かなければ、モリーさんの再来――――そう思って、冬也を見た。その顔は寂しそうで、儚げに俯いていた。
「冬也君。あのね……」
恐る恐る声をかければ、プッと冬也が笑った。
「陽向。それ、俺がもらって良い?」
「……え?」
「俺は、陽向が大事だから。この時のこと、忘れないようにしないと」
「冬也君……」
「けど、ここで切るかな」
写真を半分に折ろうとする冬也。冗談なのか本気なのか分からないが、分かることが一つ。
今の冬也は、夢の中の冬也と同様に、良い顔をしていた――――。
~おしまい~
僕の部屋に全員集合した。
生クリームとチョコのクリーム、その二つのホールケーキを机の真ん中に置き、僕と浅田で、恥ずかしげもなくハッピーバースデーの歌を歌った。それから、冬也と井草が二人並んでロウソクの火を吹き消した。
「冬也君。井草君。誕生日、おめでとう!」
「おめでとうであります。こちら、自分からのプレゼントであります」
「おめー、って、なんで俺まで強制参加?」
中村は面倒臭そうにしながらも、手を叩いて二人を祝っている。
火を吹き消した井草が、僕に耳打ちしてきた。
「なぁなぁ、これってさ、BLに発展しないよな? 誕生日が一緒で運命感じて……とかさ」
「ははは。それは」
ないんじゃないかな……と言おうとしたところに、浅田がぬっと僕らの後ろに出てきた。
「それは、大いにあり得る話であります」
「え!? マジ!?」
「しかも、どこかキャラが似ております故、共通点も多いのではないでしょうか?」
「共通点……」
井草が、隣に座る冬也を見た。そして、冬也もまた、井草を見る。
視線が交差した二人の共通点を僕は見つけてしまった。
「二人とも、ほっぺのここにホクロあるよ」
「え、マジ!?」
ペタペタと頬を触る井草を呆れた顔で見てから、冬也は僕に向かって手招きしてきた。
「ん? なに?」
「隣、おいで」
その顔は、至極穏やかで、優しい。
若干照れながらも、僕は席を移動して、冬也と中村の間に座った。
「えっと、中村君。先日は、どうも。助かりました」
ぺこりと頭を下げて、命の恩人である中村にチョコレートケーキを取り分けた。
「俺、チョコよりクリームの方が好きなんだけど」
「え、あ、そうなの? ごめん」
一旦下げようとしたその皿を、冬也がスッと取った。
「陽向の取ってくれたものにケチつける奴は、何も食うな」
「はいはい。自分で取れば良いんでしょ。たく、チビのことになると、超が付くほど面倒臭くなるよね」
生クリームのケーキを自分で取り分ける中村を他所に、冬也がチョコレートケーキをフォークで刺して食べた。その顔は無表情で、あまり楽しくないのではないかと心配になる。やはり、後で二人きりの誕生日会も開くべきだろうか。
余談だが、モリーさんが冬也の中に戻ったからといって、冬也の僕への執着心は未だ継続中だ。僕と近くにいることが出来るようになって、以前よりも周囲が見えるようになっただけ。今も隣に座らせているのがその証拠。
とはいえ、僕自身、それを苦と思っていないので、問題はないだろう。
「なんと! こちら、初版本でありますか!?」
浅田が、本棚の漫画を一冊手に取って、歓喜の声をあげた。
「へへ、凄いでしょ。並んで買ったんだよね」
「羨ましいであります。記念撮影させてくださいであります」
浅田が僕の漫画本と記念撮影する姿を見て、思い出した。
腰を少し上げて、後ろにあるベッドの中に隠していた写真二枚を手に取った。
「中村君」
「ん?」
「これ、現像しといたよ」
オレンジジュースが入ったグラスを机に置いた中村に、僕は写真の一枚を手渡した。
中村は、いつになく慌てた様子で、それを自身の体に押し付けるようにして写真が見えないようにした。
「ちょ、なに現像してんの? バカじゃないの!?」
「良いじゃん。格好良いんだから」
僕は、自分用に現像していた中村の狩衣衣装姿の写真を見ながら悦に浸る。
実は、中村とモリーさんと三人で話をした時に、モリーさんは写真に写るのか……という実験をする名目で、ちゃっかり中村のコスプレ姿も撮っていたのだ。モリーさんの姿は、写真には写らなかったため、中村と僕のツーショット写真になっている。
「ふふ、これ、浅田君に見せて」
「来なくて良いから! 病み上がりなんだから、チビは、じっとしてなよ!」
中村に無理やりクリームのケーキを口に突っ込まれた。
「んんッ」
ケーキを頬張っていると、斜め上の方から視線を感じた。
見上げれば、冬也が僕の手元の写真を凝視していた。
「冬也君……」
まずい、中村のコスプレ姿を浅田に見せてあげたくて撮っただけなのに、これは勘違いしている。絶対に勘違いしている。
「陽向」
「あ、いや、これは……」
「間宮氏、どうしたでありますか?」
浅田と井草も写真を覗き込んできた。
「わ、これ、すげぇ。中村って、こんな趣味あったんだ。てか、二人って、仲良かったんだな。やっぱ、前に二人で教室出てったのって……」
「告白でありますか!? ダブルカップルの誕生でありますか!?」
またもやBLの話で盛り上がる浅田と井草。
早く、この妙な誤解を解かなければ、モリーさんの再来――――そう思って、冬也を見た。その顔は寂しそうで、儚げに俯いていた。
「冬也君。あのね……」
恐る恐る声をかければ、プッと冬也が笑った。
「陽向。それ、俺がもらって良い?」
「……え?」
「俺は、陽向が大事だから。この時のこと、忘れないようにしないと」
「冬也君……」
「けど、ここで切るかな」
写真を半分に折ろうとする冬也。冗談なのか本気なのか分からないが、分かることが一つ。
今の冬也は、夢の中の冬也と同様に、良い顔をしていた――――。
~おしまい~



