幼馴染からもらったのは、呪いの人形でした。

 僕は、また夢を見た。
 それは、幼い頃の僕と森本。
 あの頃は、それはもう楽しく遊んで、幼稚園では、いつも一緒だった。いつも一緒に笑って、一緒に泣いた。そんな時の夢――。

『冬也君、こんなところにいた』

 園庭の隅にある大きなタイヤが半分埋まっている遊具、その中で、森本は縮こまって嗚咽を漏らしていた。

『冬也君、どこか痛いの?』
『どうして……ぅう……ママ、帰って来ないの? ママ、すぐ帰ってくるって……ヒック……病気すぐ治るって……うッ……言ってたのに』
『冬也君のお母さん、帰って来ないの?』

 コクリと頷く森本の前にしゃがんで、僕も泣いた。

『う……うえーん……ママー』
『なんで…….ヒック……陽向が……うぅ……泣くの?』
『だって……ママが良いよー』

 僕らは、ひたすら泣いた。声が枯れるほど、わんわんと泣いた。
 幼稚園の先生が来て、話を聞きに来ても、ただただ泣いた。

 ――いつまで泣いていたのか、いつの間にか僕らは泣き止み、手を取り合っていた。

『冬也君、僕がずーっと一緒にいるから、だいじょうぶだよ』
『ほんとに? やくそくだよ?』
『うん、やくそく』

 額をコツンと合わせ、二人で笑い合った――。
 
 そこで目を覚ました僕の目からは、涙が伝っていた。

「体、ダル……」

 涙を拭いながら重たい体を起こし時計を見れば、十一時を指していた。遮光カーテンからは光が漏れているので、既に日を跨いでしまったようだ。

 パジャマ姿のまま、僕は廊下に出て一階へと向かった。
 階段をヨタヨタ降りていると、父が僕に気が付いた。

「陽向……?」
「父さん、おはよ……わッ」

 残り三段のところで、僕は階段を踏み外してしまった。慌てて父が抱き止めてくれたが、全くもって足腰に力が入らない。

「ごめん」
「陽向、大丈夫か? 顔色が真っ青だ」
「うん。ちょっと、しんどい……」
「これは、ちょっとどころじゃなさそうだけど。お母さーん、ちょっと来て!」

 父が母を呼べば、水仕事をしていたのか、エプロン姿の母がタオルで手を拭きながらリビングから出てきた。

「どうかしたの……陽向!? わッ、大丈夫!?」
「お母さん、ひとまずソファに寝かせよう」
「そうね。すぐに物除けるから。お父さん、ゆっくり連れてきて」
「うん」

 僕は、介抱されながらリビングへと連れていかれ、ほんの少し水を飲んでから、白いソファの上に寝かされた。
 脇に体温計を挟まれ、額に母の手が乗せられた。

「中々起きて来ないと思ったら、調子が悪かったのね」
「陽向、他に症状は?」
「うん、だるいだけ……」

 体温計が鳴れば、すぐさまそれを父が抜き取り、母もそれを横から覗き見ようと顔を少し逸らした。

「お父さん、どう?」
「三十六度五分。熱はないようだね。でも、一旦病院に行ってみよう」
「土曜日でも開いてる病院、調べてみるわね」

 ◇◇◇◇

 そして、小さなクリニックに行った僕は、ひとまず点滴を打たれ、自宅に帰された。

「あれは、ヤブね」
「ヤブだね」

 両親は帰宅早々に文句を言いながら、スマホで他の病院を検索している。

「もう、大丈夫だよ」

 何とか踏ん張って立っている僕は、無理矢理笑顔を作る。

「どこが大丈夫なのよ。お母さんは、騙せないわよ」
「お父さんもだ」
「二人とも……」

 そんなに体調が悪いように見えるのだろうか。実際にそうなのだが、ここまで心配されるとは、自分で自分の顔を鏡で見るのが怖い。
 そして、僕を想ってくれる両親がいるだけで、胸の辺りがポッと温かくなる。
 ただ、その反面、夢の中の森本を思い出し、気分が沈む。

(森本には、お母さんがいないのか……)

 父親も仕事で忙しいのだろうし、普段、森本は一人で過ごすことの方が多いのではないだろうか。今も、もしかしたら一人で……?

 そんなことを考えていると、父が電話をし始めた。

「もしもし、十六歳の息子の調子がおかしくて……はい、はい……熱はないですが、全身の倦怠感が強くて――――」

 電話を切った父は、さっき下ろしたばかりの荷物を再び持った。

「救急で診てくれるって。総合病院だから、間違いないよ」
「初めからそうすれば良かったわね」

 僕は、またもや車に乗って病院に行くことになった。

(はぁ……寝たい)

 きちんとした治療を受けたいとは思うが、全身倦怠感が強すぎて、早く自分のベッドでゆっくりと寝たい方が優ってしまう。

 ――家の前の駐車場。
 そこに置いてある白のセダンの運転席に父が乗り込み、母が助手席に座った。シートベルトをしている様を横目に、僕も後部座席にゴロンと横になる。車が発進するや否や、僕は目を瞑った。

 目を瞑ったまま、暫く車の揺れを感じていると、二十分くらい経った頃だろうか。ふいに母が振り返って聞いてきた。

「あら、陽向。いつの間にモリーさん、連れてきてたの?」
「え? 僕は、モリーさんなんて……」

 目を開ければ、運転席と助手席の間に、ポツンとモリーさんが座ってコチラを見ていた。
 刹那、すっかり忘れていた昨日の金縛りの記憶が蘇ってきた。

 さぁっと血の気が引いた気がした。
 変な汗が背中を伝い、手足が震える。震える手で、絞められた首を触る。

「陽向?」

 少し背伸びをしながら、ミラー越しに父が僕を見た。

「お母さん。陽向の様子が」
「ええ、さっきより悪いわね。陽向、大丈夫!? 陽向!」

 焦ったように何度も声をかけられるが、モリーさんから目が離せない。恐怖で声が出ない。息が上手く出来ない。

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「お父さん! 過呼吸を起こしてるわ!」
「すぐ、車を止めるから」

 僕は何も考えることなく、モリーさんを掴んだ。車が停止し、母がすぐさま移動して後部座席の扉を開けた瞬間、僕はそれを車外へと投げ捨てた。

「「陽向!?」」

 両親が呆気に取られる中、僕は必死に肩で息をした――。