幼馴染からもらったのは、呪いの人形でした。

※陽向視点に戻ります※

 その日の夜。
 風呂も済ませ、パジャマ姿になった僕は、モリーさんを高い高いするように掲げながら、ゴロンとベッドに横になった。

「結局、森本の誕生日、聞けずじまいだよ。まぁ、まだ五月だし、いつでも良いよね」

 一日二日聞くのが遅れたからといって、大した差はないだろう。それよりも、森本を誘って断られたことにショックを覚えている。

 僕のことが嫌いな森本なら断って当然なはずなのに、それでも、夢の中の森本を思い出し、落胆の色が消えない。

「夢の中じゃ、僕のこと好きって言ってくれたんだよ。昔みたいに、笑ってくれたんだよ」

 現実と夢は全くの別物だということを身をもって感じながら、モリーさんを枕元に置いて、代わりにスマホを手に取った。
 チャットアプリを開き、新たに作られた僕と浅田と井草、三人のグループチャットに文字を入力していく。

【井草君の誕生日会も、うちで一緒にやって良いって】

 送信ボタンをタップすれば、すぐさま既読が付いた。

【サンキュー、マジ嬉しいんだけど】

 井草からは、喜びを前面に出したスタンプ付きの返事が届き、浅田からもメッセージが送られてきた。

【ケーキは自分が用意しますと、お母様にお伝えくださいませ】
【ありがとう。助かるよ】

 浅田の母は、洋菓子屋でパートをしているらしく、ケーキも店員価格で手に入るのだとか。休日に遊びに出る時は、たまにそこのクッキーを持ってきてくれたりする。

 口の中が甘くなっていると、何となく視線を感じた。
 扉の方に目を向けるが、誰もいない。モリーさんの方を見れば、真っ黒い瞳が、じっとこちらを見据えている。

「独りぼっちの時に、無言でそれは怖いよ」

 冗談交じりに笑って、モリーさんの視線が僕を見ないように九十度回転させる。
 僕の中でマスコットキャラになりつつあるモリーさんだが、楽しく会話をしてくれている時ならまだしも、静まり返った部屋に、霊的存在の人形は恐怖を感じずにはいられない。身震いして布団を肩までかけた時、点いていた電気がチカチカと点滅し始めた。

「え、何!?」

 こんな時に電気が切れたのだろうかと思って、体を起こそうとする。しかし――――。

(あれ? 動かない)

 全く体が動かない。そして、口をパクパクするも、声が出ない。
 
 ――もしや、これが、かの有名な『金縛り』というやつだろうか。

 チカチカしていた電気も完全に消え、真っ暗になった部屋。
 下にいる両親は、まだ寝ていないにしても、部屋に来ることはないだろう。
 恐怖に震えていると、僕の上に何か乗っているのが、ぼんやりと見えた。

(もしや、モリーさんの実態……的な? この間、霊的存在って言ってたし……ワンチャンあり得る)

 モリーさんは、僕を殺そうとしている訳ではないと言っていた。しかし、この状況は死を連想させる。
 
『なぁ、陽向』

 やはりだ。これは、森本そっくりのモリーさんの声。
 いつものようにクマのぬいぐるみからではなく、頭の中に響くように聞こえてくる。

『学校、楽しい? 新しい友達出来て、良かった?』

 返事をしようにも、言葉は出ない。頷くことも不可能。

『俺はさ、不愉快極まりないんだけど。このままじゃ、呪い殺しそう』
「――――ッ!?」
『陽向はさ、あんなチャラチャラした男、あんなのと仲良くするようなタイプじゃなかっただろ? どうして、あんな奴と……』

 チャラチャラした男とは、一体……?
 浅田は違うだろうし、茶髪でピアスの穴が三つ開いている井草だろうか。今日は中村とも話したが、彼はチャラチャラというより、謎に満ちた物静かなタイプだ。やはり、消去法でいっても井草しか思い当たらない。

『ここに連れてきでもしたら、俺……アイツ殺すから』

 もしや、モリーさんは、先程のチャットのやり取りを見て……?
 ここで誕生日会を開くなと、警告しているのだろうか。

『分かってると思うけど、アイツの誕生日を祝うこと自体、NGだから。俺の誕生日もすっかり忘れてさ。陽向、酷すぎ』

 モリーさんの誕生日も忘れてないよと口をパクパクさせていると、何故だか、声が出るようになった。

「モリーさん! 僕、忘れてないよ! 五月二十八日でしょ!? だから、僕はみんなで、モリーさんの誕生日と井草の誕生日を一緒にって……うッ」

 ずっしりと、お腹の上の重みが増した。
 
『アイツの名前、俺の前で呼ぶな』

 首元にヒヤッと冷たいものが纏わりついた。それは、じわじわと僕の首をしめていく。

「ううッ……」

 息が出来ない。苦しい。
 抵抗も出来ず、意識だけが遠のいていく……。
 
 そんな中、頭に浮かんだのは、何故か森本の顔。

「助けて……冬也……君」

 か細い声でそれだけ絞り出した僕は、そのまま意識を手放した――――。

 ◇◇◇◇

 意識を失った陽向の上で、その顔を優しく撫でる大きくて冷たい手。

『悪い。陽向を苦しめるなんて……俺、最低だ』

 風でカーテンがゆらめき、部屋の中に月明かりが入ってきた。そこに照らされたのは、何とも複雑そうな顔をした短髪で高身長の男。

 ――ピロン♪

 陽向のスマホが暗闇に光り、ロック中の画面に、井草からスタンプが送られてきた通知が届いた。

『チッ、マジで呪い殺しそう……』