中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

「白石くんって、ほんとに同じクラスなの?」

「昨日テレビ出てたよね?」

「え、近くで見るとやば……」

扉を開けたまま固まっていた俺の横を、女子が二人、三人とすり抜けていく。

春の光が差し込む教室の窓際、そのあたりだけ別の照明が当たっているみたいだった。

白石凛央。

昨日、みどまるの横で笑っていた本人が、今日は制服の襟をきれいに整えて、机に片手をついたまま女子たちに囲まれている。

まぶしい、と思った。

昨日も思ったけど、今日は種類が違う。イベント会場で人を惹きつけるまぶしさじゃない。新しい教室の、まだ誰のものでもない空気を、自然に自分の周りへ寄せてしまう感じ。テレビの向こうのアイドルが、そのままクラスの真ん中に座ってしまったみたいだ。

「サインとかって、やっぱりだめ?」

「先生に怒られそうだから、今日はやめとく」

笑って言う声はやわらかいのに、ちゃんと線が引かれている。

「連絡先は?」

「クラスの連絡網ができたら、そっちで」

それもさらっとかわす。

断ってるのに感じが悪くない。近づかれても慌てないのに、近づきすぎは許さない。距離の置き方まで完璧だ。

昨日、みどまるの中で息が上がっていた俺に向けて落ちてきた、あの低くてやさしい声と同じはずなのに。ここでの凛央は、誰に向けてもきれいで、均一で、隙がない。

視線がふっと上がって、教室の入口に立ったままの俺とかち合った。

心臓が嫌な跳ね方をする。

気づかれた、と思ったのは、たぶん俺のほうが勝手に昨日を引きずっているからだ。だって相手は、みどまるの中身の顔なんて見ていない。知っているのは、ぐらついて、ふらついて、フリップの字が震えていた、情けないゆるキャラだけだ。

絶対に、正体を悟られてはいけない。

それだけは、この瞬間に決めた。