中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

入学式の日、校庭の桜はちょうど満開だった。

校門の前で新しい制服の襟を直しながら、俺は昨日のことをなるべく考えないようにしていた。

一日だけの代打。あれで終わり。イベントなんてそうそうないだろうし、俺がまた駆り出されることはもうないだろう。
とにかく今日は学校だ。

学校。

新しい教室。知らない顔。自己紹介。そういうのだけで十分緊張するのに、昨日の春フェスのことまで思い出していたら持たない。

それなのに、校舎に入ると、廊下のざわめきの中に混じって、女子の小さな悲鳴みたいな声がした。

「え、ほんとに白石凛央いるんだけど」

「同じ学校だったの!?」

「やば……顔ちっさ」

心臓が、嫌な跳ね方をした。

まさか、と思う。

いや、でも地元出身なんだから同じ高校でもおかしくない。おかしくないけど、そんな都合の悪い偶然あるか?

あるらしい。

教室の前の名簿で自分の名前を確認して、息を整えて、扉を開けた瞬間。

窓際の席で、春の光を背にした白石凛央と目が合った。

昨日みたいなイベント用の笑顔じゃない。制服姿で、何でもない顔で、でもやっぱり人目を引くくらい整っていて、まるで最初からここが似合っているみたいにそこにいる。

――なんで、いるんだよ。ここに。