中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

終演の拍手が鳴ったとき、俺は本気でへたりこみそうになった。

なんとか最後まで立てた。立てたけど、足はもう自分のものじゃない。背中は汗でじっとりだし、肩は鉛みたいに重い。頭の中まで熱い。

バックヤードで頭を外した瞬間、世界が倍くらい広くなった。

「お疲れさまです!」

「助かりました、ほんとに」

職員さんたちが口々に言う。俺は「いえ」としか返せない。疲れすぎて、うまい返事ができない。

凛央はさっきみたいに衝立の向こうから声をかけてきた。

「じゃあ、俺はこれで。みどまる、お疲れ様!」

その言い方が、心地良くて。
胸の奥で、何かが小さく鳴った。

ありがとう、と返したかったのに、今日は「みどまる」だから言えなかった。

ちらっと衝立から外を覗くと、春風が彼のジャケットの裾をふわりと揺らした。

その背中を見ながら、俺は変な気持ちになる。

まぶしかった。近かった。助かった。

その三つがまだ、胸の中でぐるぐるしている。

業務連絡ノートを開くと、最後のページの余白に、いつの間にか短く書き足されていた。

『きょうは えらい』

丸っこくて、でも父さんの字じゃない。職員さんのでもなさそう。たぶん、凛央の文字だ。

横に、小さな葉っぱが二枚。

俺はそのページを閉じるのに、なぜか少し時間がかかった。