中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

合同イベント当日の朝、校門前はもう春の匂いでいっぱいだった。

俺たちが植えた花壇は、朝の水を吸ってつやつやしている。濡れた土の黒さ。葉っぱの先にたまったしずく。テントの白い布が風で鳴って、正門には『学校×市 花いっぱい合同緑化イベント』の横断幕が張られていた。

「青柳、白石、開会のあと寄せ植え体験ブースお願いね」

担任が腕章を渡してくる。

「苗の説明、青柳がいちばんわかるだろ。白石は案内で人集めて」

わかった、と返しかけた、そのとき。

体育館裏のほうから、父さんが来た。
まだ少しだけ腰をかばう歩き方のまま、業務連絡ノートを片手に。

嫌な予感しかしない。

「樹、悪い。でも、今日で、花いっぱい運動のイベントが終わるから」

それだけで十分だった。

開いたノートには、今日の市側スケジュールが書いてある。
開会式、写真撮影、みどまる花壇まわり、子どもとのふれあい、白石凛央さんとステージ。

ぜんぶ、学校のブース当番と同じ時間に重なっていた。

「父さん、まさか」

「中、まだ無理。今日も頼む。これが本当に最後だ」

同時に、正門のほうから凛央の声がした。

「青柳?先生、呼んでる」

振り向けば、緑化委員の腕章をつけた凛央が、朝の光の中でまっすぐこっちを見ている。

合同イベント当日、白石の隣にいるべき二人――緑化委員の青柳樹と、みどまる――そのどっちも、俺だった。