中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

放課後のホームセンターは、水を撒いたばかりの園芸コーナーがひんやりしていた。

濡れたコンクリートの床。積み上がった黒い培養土の袋。ビニールポットの並ぶ棚から、若い葉っぱの青い匂いと湿った土の匂いが一緒に立ってくる。制服のまま来る場所じゃない気もするのに、凛央が隣にいるだけで、なんだかそれもありな感じになる。

俺が先生のメモを広げて、凛央がカートを押す。

その組み合わせが、妙に自然だった。

「ビオラ、白から見る?」

「黄もいる。寄せ植えにするなら、先に高さそろえたほうがいいかも」

「了解、委員長」

「委員長じゃない」

「でも青柳のほうが詳しいだろ」

言いながら、凛央が棚の前でしゃがみこむ。白シャツの袖をひとつ折って、葉のつき方をちゃんと見ている横顔が近い。学校の教室で見るのと同じ顔なのに、ここだと力の入り方が違う。

「これ、花数多い」

「そっち、根元ちょっと詰まり気味」

「うわ、ほんとだ。青柳、よく見るな」

「お前が見てないだけ」

「見てるよ。顔のいい苗だけ」

「最悪だな」

言うと、凛央が声を立てずに笑った。

「冗談。ちゃんと見てる」

その笑い方が、教室の真ん中でつくる完成されたやつじゃない。
少し肩の力が抜けていて、妙に心臓に悪い。

白のビオラを選びながら、凛央がふと青い花の棚に目をやった。

「これ、いいな」

指先の先にあったのは、青のロベリアだった。

「好きなの、そういう色?」

俺が聞くと、凛央は意外そうな顔をした。

「好きな色?」

「急にじゃない。配色の参考」

「言い訳くさいなあ」

でもちゃんと考えてから、凛央は答える。

「青。あと、白」

「へえ」

「青柳は?」

「緑」

「だと思った」

「なんだよ」

「葉っぱ描いてそうだし」

ぎくっとした。

心臓に悪すぎる。

けど凛央はそれ以上何も言わなくて、ただビオラをカートへのせた。試すみたいにも、探るみたいにも見えたのに、声だけはあくまで普通だ。

気づいてるのか。
まだわからないのか。
わかってて、わからないふりをしてるのか。

そのどれでもありえそうで、困る。

「マリーゴールド、数足りないな」

棚を見上げて凛央が言う。

確かに黄色が四つしかない。オレンジはあるけど、先生のメモには黄多めって書き足されていた。

「商店街の園芸店、まだ開いてるかな」

「行ってみる?」

「……行くか」

「よし」

凛央の返事が少しだけ嬉しそうで、変に胸があたたかくなる。

カートのきしむ音を押しながらレジへ向かう途中、ハーブ苗の棚からミントの匂いがふわっと流れてきた。葉を触った誰かがいたのかもしれない。涼しい匂いに、詰まっていた息が少しだけ楽になった。