中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

翌朝、凛央はいつも通りだった。

教室の真ん中で、女子に話しかけられればきれいに笑って、男子にノートを見せてくれと言われれば気さくに返す。昨日の多目的室の空気なんて、最初からなかったみたいに。

「おはよう、青柳」

俺の机の横に来たときの声まで、普通だった。

「……おはよ」

普通に返したつもりなのに、自分のほうが全然普通じゃない。

しかも一時間目の前、担任に呼ばれて、俺たちは職員室に行くことになった。

「今度の土曜、市の『花いっぱい運動』と合同で公開緑化イベントやるから」

担任はプリントの束を脇に抱えたまま、俺たちに茶封筒と小さなメモを渡した。

「学校の花壇案内と寄せ植え体験を一緒にやる。市から苗も少し来るけど、展示用に買い足したい。放課後、二人で見に行ける?」

合同。
市。
花いっぱい運動。

嫌な予感の単語ばっかり並ぶ。

横を見る勇気はなかったけど、たぶん凛央はいつもの顔をしている。
たぶん。

手渡されたメモには、先生の字で、ビオラ白六、黄六、マリーゴールド八、培養土二袋、予算内で、って書いてあった。

顔を上げると、凛央が俺を見ていた。

どき、とする。

「今日、行ける?」

凛央は何でもない声で聞いた。

「あ、うん。俺は」

「俺も大丈夫」

返事も、表情も、普通。

普通すぎて、余計に落ち着かない。