中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

その視線が、メモの端の花から俺へ届くまでの一秒が、やけに長かった。

窓から入る春風が、付箋の角をかすかに揺らす。

俺は、変に乾いた喉を飲みこむことしかできない。

凛央は何か言いかけるみたいに唇を開いて、それから閉じた。問いつめるでもなく、笑うでもなく、ただ静かに付箋の端を押さえる。ゆっくり剥がして、自分のポケットにしまった。

「……さっきは、ごめん」

低い声だった。

「俺も、ちょっと言い方きつかった」

花のことには触れない。
俺が描いたとか、似てるとか、何も。

それが逆に、怖かった。

「あ、いや……俺も悪かった」

なんとか返すと、凛央は少しだけ目を細めた。

「うん」

それだけだった。

でも、そこで終わるには、あの間が長すぎた。

気づいたのに言わないでいるみたいな、そんな長さだった。