中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

「青柳、昼どうする?」

声が近くで落ちた瞬間、俺は机の中の教科書を引っぱり出すふりをした。

昼休み前の教室はざわついていて、窓から入る春の風が、配られたプリントの角をぱたぱた揺らしている。席の前に立った凛央は、いつも通りきれいだった。

「先、行ってて」

自分でも少し硬いと思う声だった。

凛央が一拍だけ黙る。

「緑化委員、花壇見るんじゃなかった?」

「あとで行く」

「そっか」

それだけだった。踏みこまない。変に問いたださない。凛央はそういうところまできれいだ。

なのに、そのあっさりした引き方に勝手に痛むのは、たぶん俺が勝手に拗れているからだ。

昨日の帰りに業務連絡ノートで見た字が、朝からずっと頭の端に引っかかっていた。

『いつか、中の人にちゃんと会ってお礼が言いたい』

会いたいのは、たしかに俺だ。
でも、会いたい相手として呼ばれているのは、青柳樹じゃない。

そんなの、凛央は何も悪くない。
悪くないのに、胸の真ん中だけが勝手に苦しい。

「白石くん、今日購買一緒に行こ!」

「白石、昨日の配信見た?」

すぐに何人かが凛央の机のまわりへ集まる。凛央はそっちを向いて、いつものきれいな笑顔をつくった。

「購買は行く。配信はあとで感想聞かせて」

声までちょうどいい。やさしいのに、ちゃんと距離がある。誰が相手でも困らせない、学校の白石凛央だ。

俺はノートを開いたふりをして、そこから目をそらした。