中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

駅前広場は、開始前からざわついていた。

花壇のまわりにはスマホを持った人が増えていて、子どもたちはみどまるの双葉を見るなり跳ねる。商店街の人、市の人、親子連れ、学校で見かけたことのある顔まで混じっていた。

「前回の反応すごかったんですよ」

「今日も短い動画、一本お願いできますか?」

「商店街のアカウントでも使いたいので、笑顔のカット多めで」

スタッフが軽く言うたび、凛央は全部に笑って頷く。

「もちろん、いいですよ。どのタイミングがいいですか?」

軽い会話のはずなのに、聞いているだけで胸がざわつく。
“反応がよかった”“今日も”“笑顔多めで”。
一つひとつは小さいのに、積もるとちゃんと重さが変わる。

なのに、凛央の顔は崩れない。

子どもにしゃがんで目線を合わせる。
保護者に写真の角度を譲る。
学校の子らしいグループが「白石くん!」と手を振れば、きれいな笑顔で手を返す。

「来てくれてありがとう。花、持って帰ったら水ちゃんとあげてね」

その言い方がやさしいから、みんな嬉しそうだ。

すごい、と思う。
ほんとに、すごい。

でも、みどまるの中から見ていると、わかってしまうこともある。

凛央は、休憩のたびに俺には「みどまる、水大丈夫?」と聞くくせに、自分のボトルにはなかなか口をつけない。
誰かに声をかけられるたび、先に笑顔を作ってから振り向く。
拍手が大きいほど、笑い方が少しだけきれいになりすぎる。

風はある。
花の匂いもする。
でも、着ぐるみの中の俺は暑いし、苦しいし、その上で凛央のほうまで気にしているから、頭の中まで熱かった。

二回目のステージが終わったあと、裏のテントに戻る導線で、スタッフがまた言った。

「白石くん、次の親子フォトのあと、コメント動画一本だけお願いします」

「さっきの、すごく良かったです。今回も伸びそう」

「はい」

即答。
その声は明るい。
明るいのに、近くで聞くと、少し乾いていた。