中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

それからしばらく、二人で無言のまま花壇を整えた。

枯れた葉を取って、倒れた札を直して、端のほうの土を少し寄せる。じょうろで軽く湿らせると、土の黒さが戻って、葉っぱの緑が少しだけ濃く見えた。

白石の指先に土がつく。
俺の袖口も少し濡れる。

「青柳」

「ん」

「こういうの、いいね」

凛央は花壇を見たまま言う。

「水やって、ちょっと整えるだけで、ちゃんと変わるから。目に見えるの、落ち着く」

「分かる」

「あと」

そこで一度区切って、少しだけ迷うみたいに間があった。

「青柳といると、黙ってても気まずくならないし」

俺は持っていた札を落としかけた。

あぶないところで指に引っかかって、かすかに鳴る。

凛央はそれを見て、ふっと笑った。

「なんで、びっくりするの」

「別に」

「顔に出てる」

「白石ほどじゃない」

言い返すと、凛央は目を丸くしてから、少しだけ嬉しそうに笑った。

「俺、出てた?」

「たまに」

「そっか」

たぶん、それ以上聞いたらだめなんだろうと思う。
俺のほうも、それ以上言ったら絶対おかしくなる。

だから、終わった花壇の前で、二人して水道までじょうろを返しに行った。

そのあとベンチで記録ノートを開く。

『昼休み 正門前花壇 散水』

俺が書いた字の隣に、凛央が今日の日付と天気を書き足す。
やっぱり、きれいな字だ。

「これで立派に委員の仕事」

俺が言うと、凛央はノートの上でペンを止めた。

「うん」

凛央はペンを閉じて、ノートを俺に返した。

「青柳って、人がしんどいとき、けっこうすぐ気づくよね」

「……そうか?」

「うん」

短く返して、少しだけ間があく。

風が吹いた。
街路樹の葉が鳴る。

その次の瞬間、凛央が、ごく自然な声で言った。

「青柳って、なんか……みどまるに似てる」

そのひと言で、俺は、心の底に隠したいちばんまずい秘密ごと、思いきり跳ねた。