中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

昼を過ぎると、広場の人はもっと増えた。
春風はあるのに、みどまるの中はむしろ蒸されるみたいに暑い。額から落ちた汗が眉を伝い、目の近くまで降りてくる。息をするたび、内側の布が少し湿っていく。

しかも今日は、凛央の仕事が多かった。
苗配布の列整理だけじゃなく、途中でマイク担当の大学生が遅れて、市の職員に「白石くん、次の説明もお願い!」と呼ばれていた。
凛央は「はい」と即答して、そのまま子ども向けの植え方説明までこなしてしまう。

それでも、外から見れば一度も乱れない。
子どもが泣けば目線を合わせてしゃがみ、苗の説明を頼まれれば笑顔で答え、時間を聞かれればすぐ返す。写真を撮る保護者に場所を譲るときの手の動きまできれいで、やっぱり教室の凛央と同じだと思った。

同じ、のはずだった。

出番のあと、テントの横を通りかかったとき、俺はたまたま見てしまった。
人から見えない位置で、凛央が一瞬だけ目を閉じていた。片手でこめかみを押さえて、ゆっくり息を吐く。ほんの数秒。
でも、次に顔を上げたときには、もう何事もなかったみたいに整っている。

その横顔に、学校の花壇で聞いた言葉がよぎった。

見た目が元気でも、中から先にからからになる。

花の話だったのに、今は別の意味に聞こえた。

そのあとの出番でも、凛央はちゃんと笑っていた。
でも一度そう見えてしまうと、分かる。
さっきより肩が少しだけ下がっていること。
指先が、マイクを持つたびほんの少しだけ強くなっていること。
俺に「水分補給」と声をかけるくせに、自分のボトルへはほとんど手が伸びていないこと。

言えたらいいのに、と思う。
休んで、とか。
お前のほうこそ飲めよ、とか。
大丈夫じゃなさそうだ、って。

でも、みどまるはしゃべれない。