中の人は秘密なのに、クラスのアイドルが近すぎる

土曜の朝、駅前広場のテントの奥で、俺はみどまるの丸い頭を両手で抱えていた。
着替えの導線は最初から分かれていて、仕切り布の向こうから凛央の声が聞こえても、姿は見えない。

ほどなくして、テントの外から子どもの声がいっせいに上がる。

「みどまるー!」

「きたー!」

スタッフの合図で前へ出ると、駅前広場は春そのものだった。花いっぱい運動の横断幕の下に、色とりどりの花鉢と苗トレーが並んでいる。ビオラ、マーガレット、ペチュニア。土の匂いに、水を撒いたばかりの歩道のにおいが混ざって、風のたびにやわらかく流れてくる。

ただし、みどまるの中は春どころじゃない。
頭の中に自分の息が跳ね返ってきて、すぐに熱くなる。背中に汗がにじんで、首の後ろがむずむずした。視界は狭いし、丸い手は相変わらず不器用だ。

その狭い視界の端に、凛央が入る。
白シャツに腕章、首からスタッフパス。子どもにも保護者にもにこやかに対応しながら、俺にだけ聞こえるように「次は右」と声をかけてくれる。

俺がこくんと大きくうなずくと、凛央は今度は子どもに向かってしゃがみこんだ。

「走らないでね。順番で写真撮ろう」

その声は、教室で女子に囲まれているときと同じくらいやさしい。きれいに整っていて、誰に聞かれても困らない声だ。
けど、また俺にだけ聞こえるように、声をかけてくれる。

「子ども、前」

また出る。
俺はしゃがんで手を振る。
小さい子の笑い声が近い。
その横で凛央が「じょうず」と口の形だけで言った気がして、みどまるの中で変に暑くなった。