「いや、俺ミルクコーヒーは頼んでなくて、、、」
「ええ、、、?いや、頼んでいたと思うのですが、、、」
「ただのコーヒーを頼みました、、、」
「いや、、、」
店員さんとお客さんが揉めている。
コーヒーにミルクを付けたか付けてないかについて。
今店主は店裏に行ってしまっている。
ここの店はコーヒー豆が美味しいので、コーヒーかミルクコーヒーをみんな頼む。
そのため、紛らわしくはあると思う。
けど、そのお客さんの方はあたりを見て、申し訳なさそうにした。
そして折れたような顔をした。
「じゃあ、それで良いです、、、」
と、言った。
でも、私は知っている。
お客さんの方はミルク入りなんて言ってなかった。
間違っているのは店員さんの方。
ーーでも、、、
私が言って解決するのか。
だけど、このままだとお客さんが可哀想。
見て見ぬふりをするわけにもいかない。
私は席を立って二人の方向に行く。
「あの、、、」
「え、、、?」
お客さんが驚く。
店員も驚いた顔でこちらを見ている。
ーー言わなきゃ、、、
「あの、この人、普通のコーヒー頼んでましたよ。」
緊張しながらも伝える。
「え、本当ですか?」
「ええ、聞いていました。席がすぐそこなので、、、あと、いつもそれ、頼んでいる人だと思うので。」
第三者が入ることで、少し自信を無くしたのか、店員さんは言った。
「そうでしたか、、、大変申し訳ありませんでした。」
丁寧にお辞儀をしてくれた。
「すぐにコーヒーを用意します。」
「いえ、、、」
お客さんは首を振った。
「それは申し訳ないですし、勿体無いですし、全然こっちも飲めるので。」
「本当ですか?」
「はい。」
「すみません。ありがとうございます。」
無事解決したらしい。
そして、そのお客さんはこちらを見て言った。
「ありがとうございました。助かりました。」
すると店員も言う。
「本当に申し訳ありません。ありがとうございました。」
「いえいえ、そんな、、、誤解が解けて良かったです。」
一件落着、そう思ってまた席に座ると、声がかかった。
見るとさっきのお客さんだった。
「あの、ここ良いですか?」
「え?ああ、はい、、、どうぞ、、、」
「ありがとうございます。」
そう言って座ってきたお客さん。
いつも雰囲気や服装あたりでしか判断しないから、あまりまじまじと見る機会がない。
そのため、今はよく目に入った。
恐らく近くの高等中学校の人だろう。
学ラン姿できちんと着ているけど、第一ボタンだけ開けている。
親しみやすい笑顔の人だけど、整った顔立ちだ。
少し童顔で、雰囲気が明るい。
窓から射す光が当たって綺麗だった。
ーーてゆうか、距離が近い、、、
「助けてくれて本当にありがとうございました。」
「いえいえ、、、」
声もやっぱり、少し明るめだ。
そして笑顔で言う。
「あの、俺が毎日来てあのコーヒーを頼んでること知ってるんですね。」
「あ、、、」
今気づく。
そんなこと普通覚えてたらおかしい気がする。
慌てて訂正した。
「いや、その、違うんです。毎日同じ席で、それが近くだったので覚えていたんです。私も、毎日同じもの頼んでいる立場なので、印象的だったって言うか、、、」
ーー慌てすぎた、、、
気を悪くしてないか心配だったけど、相手は何だか楽しそうな笑顔だった。
そして私に言った。
「いや、俺も実は、何となく気付いてたんです。この席の人いつも同じ席でいつも同じの頼んでるなーって。俺だけじゃなくて良かった。」
何だかその答えにホッとした。
「俺、陽真って言います。歳は一六です。」
同い年なんだ。
しかも名前だけ言うスタイル、、、
「あっ私は、小夜と申します。歳は、一六でございます。」
「同じなんだ。じゃあ敬語やめましょう。」
「え?」
「俺のことも呼び捨てでよろしく。」
「ええ?」
「よろしく、小夜。」
「えええ?」
とんとん拍子に話が進んでいくことには戸惑った。
それに、何だろう。
ーーこんな人、初めてだな、、、
今までこんなに明るく、敬語抜きで良いと自分から言う人いなかった。
この人は、よく会話が続く。
「歩き?一緒だ。」
「そうなんですか?」
例えばどうやってここに来てるとか。
「あそこの女学校だよね。ここは家とかから近いの?」
「そう、ですね。歩ける距離ではあります。」
「そうなんだ。体力あるね。」
感心したように言った。
「いえ、そんな。陽真さんは、少し中心地に近い、高等中学校ですよね。歩きで遠くないんですか?」
「まあ、運動も大事だからね。あと、ここに寄りたいから。」
「そうなんですね。ここ、とても素敵ですよね。」
「うん。落ち着くんだー。」
思わぬ形で話し相手ができてしまった。
この時、久しぶりにこんなに笑顔で会話した気がする。
危うく素が出るところだった。
あっという間に時間が過ぎた。
「もう帰らないとね。」
「はい。」
店の外に出る時、陽真は帽子を被っていた。
雰囲気が少し変わったようにも見える。
そして私に言った。
「ねえ、次会った時は同じ席に座らない?」
「え?」
なんの迷いもなく言ってくるので、聞き返してしまった。
「楽しかったから、また話したいんだ。」
「ーー」
思わず息が止まった。
そんな風に言ってくれる人がいるなんて、正直に嬉しかった。
「全然、無理しなくて良いんだけど!」
「いえ、私も楽しかったです!だから、是非お願いします!」
「良かった。」
嬉しそうににしてくれた。
春風がそっと靡く。
私の長い髪も、陽真の短い髪も。
私たちは、これをきっかけに頻繁に会う関係になった。

