明けぬ空に、君を想う


落ち着いた空気の中、二人で座って少し話すことにした。

陽真が言った。


「何だか、色んな事があったね。」

「うん。たった一夜なのにね。」


そう言って空を見上げた。

もうすぐ夜明けだと分かった。


「でも、まだ明けないね。」

「そうだね。」


冬の空はより鮮明に感じる。
藍色から、徐々に茜色に変わっていく。
まだそこまでは行かない空が、何かに重なる。


ーーああ、そっか、、、

声に出した。


「何だか、今の私たちみたい。」


突然出た言葉に、陽真はこちらを向いた。
私は続ける。


「真っ暗だった空が色々あって、明け方の空に近づいたみたい。なのに、空亡も一族も、まだまだ暗さが続いていて、、、」

「そうだね。完全な夜明けは、まだ遠いのかもね。」


陽真も返す。

だけど、その後また続けた。


「俺は、そんな明けない今の空に、君を想ってる。」

「、、、え?」


突然の言葉に、私は聞き返してしまった。

すると、陽真は何かを決意したような表情になった。
そして立ち上がり、私の前に立つ。

目を見て、話し始めた。


「俺はやっぱり、小夜のことが好きなんだ。そばにいたい。」

「陽真、、、」

「まだ解決してないことばっかりだよ。でも、俺は小夜のためなら、何でもできる。だから、、、一緒に生きてほしい。」


まっすぐな瞳。
とても綺麗だった。

陽真はきちんと、落ち着いていった。


「俺と結婚してください。」

「ーー」


驚きを隠せなかった。
でも、本気だと分かった。

どうするべきなのか分からず、何か言わないとと迷って出てきた。


「私たち、、、まだ学生だよ?」

「分かってるけど、今言わないと後悔すると思ったんだよ。てゆうか、卒業まで伝えなかったら絶対縁談決まっちゃうと思ったし!」

「それもそうだね、、、」


少し焦って返した陽真は、自分を落ち着かせて、私に聞いた。


「これは俺の気持ち。わがまま。小夜は、どう思ってる?」


前にも、こんな事があった。


ーーそんなの、、、

決まっていた。
どうしょうもなく嬉しかった。

陽真の何でもする、は多分本気だ。
その顔から滲み出ている。

一族を説得できるように、認めてもらえるように、一緒に頑張ってくれる。
もしできないのなら、駆け落ちでもしてくれそうだ。

私は、認めてもらいたい。
自分自身のことを、そしてそれ以上に、陽真と一緒になれる未来を。

ーーいつからだろう、、、

こんなに彼を想うようになったのは。

でもきっと始めから。


『ここ、座ってもいいですか?』


何かを感じていたのかもしれない。
だって、はっきり覚えているから。

何度も、何度も救ってくれた人だ。
いつも優しく、見ていてくれた人だ。
でも誰よりも、悩んで葛藤してきた人だ。

一緒にいて楽しい。
心が温かくなる。

そしてドキドキしたり、笑ってしまったり。

確かに、他の選択肢はある。
今の私たちの状況なら、兄達の言葉が正しい。

自分の選択で、またお互いが傷ついてしまうかもしれない。


ーーそれでも、、、


「はい、、、」


そばにいたいという感情は、止めることができない。

私は、立ち上がって陽真を見る。

思わず笑みが出てしまった。


「私で良ければ、喜んで、、、」


陽真の顔は、パッと晴れやかになった。
今までで、一番素直で嬉しそうな顔だった。


「ありがとう。」


優しく言った。

私の頭の中に、一つの考え方が浮かんだ。
それをなんとなく、口にしてみた。


「それにね。陽真が私の夜空が綺麗だってくれた時から考えたんだ。」

「何を?」


聞き返す陽真に、私は空を見上げながら言った。


「今の明けない空も、凄く綺麗だよね。」

「、、、そうだね。いや、俺は小夜とみられる空なら全部綺麗だよ。」


さらっと言ってしまうところに驚く。
急に顔が暑く感じた。


「それは照れるからやめて。」


なるべく冷静に返したけど、陽真は笑っていた。


「やっぱ小夜だね。」


そう言った。


「でも、陽真、、、」

「どうしたの?」

「私、陽真と出会えて良かった。ずっとそばいにいたい。陽真のことが好きだから。」

「、、、」


陽真は固まっていた。


「どうしたの?」

「いや、面と向かって言われると、、、」

「照れてるんだ。」

「小夜だって照れてたでしょ。」

「当たり前でしょ。」


そんな会話ができる今も、改めて幸せだと感じた。

もう一度、素直に笑ってみせた。


その時、陽真が一歩近づいてきた。

そして私を、そっと抱きしめた。

とてもゆっくりと進んでいるように感じた。
少しの緊張と安心感を感じた。

冷たい空気の中、陽真の体温が温かい。

私も抱きしめ返した。

抱きしめたまま、少しだけ時間が過ぎた。


ゆっくりと離れて、顔を見合わせる。

陽真だけが、見える。

陽真がゆっくりと私を見つめた。

近づく顔に、思わず息が止まる。

他の音も全く聞こえない。

私は目を閉じた。

そして、触れるように唇が重なった。
驚くほどに、温かかった。


もう一度顔を見合わせた時には、お互い少し目を逸らした。

だけど、またお互いを見る。


「行こっか。」


二人で重なった言葉に、また笑みが溢れる。


陽真が手を差し伸べてくれた。
その手を取って、歩き始めた。

この先何があるかは分からないけど、それでもきっと大丈夫。

そう思った瞬間でもあった。


明けない空の中、私たちは想いあった。


深く濃い紺色から、藍色になっていた空。
東雲色に変わっていく。

まだ夜は完全には明けていないのに、どこか怖くなかった。

もう淋しくはなかった。


もうすぐ、夜が明ける。