洋化が進んだ屋敷。
華美な装飾が、
かえって息苦しい。
私はいつものように裏門から入る。
ーー物音を立てないように、、、
「あら、小夜様。」
ーーやってしまった。
「あ、あはは、、、」
「おかえりなさいませ。」
「ただいま帰りました、、、」
使用人に見つかってしまった。
ーそんな大きな声出したら、、、
案の定、近くの部屋の扉が開く。
「おかえりなさいませ。小夜様。」
「あら、帰ったのね。毎日毎日、どこで道草食ってるのかしら。」
母とその使用人のサワが出てきた。
「も、申し訳ございません。」
「まあいいわ。今日の夕食は早いの。さっさと降りてきなさい。」
「はい、、、」
急いで鞄を置いて食事場に向かう。
すでに全員揃っていた。
「遅いわね。」
「申し訳ございません。」
姉の不機嫌な声。
母は当然だと言いたげな顔。
父は無表情でこちらは見ていない。
兄は、余裕のある笑みを浮かべている。
ーーいつもの光景。
そして私が最も嫌いな、夕食の時間が始まった。
夕食は洋風なことが多く、洋館で食べる。
会話だって少なからずしている。
テーブルを囲み、軽く見ればかなりしっかりとした名家だ。
最初に口を開いたのは父だった。
「最近は、あまり空亡の情報が出ていない。」
冷酷さを感じさせるけど、ちゃんとこうゆうことは話す。
この人が水無瀬家当主、清隆。
いかにも当主らしい見た目だ。
「ええ、お陰で俺も帰りが早いです。」
「喜ばしいことだわ。」
「こうして家族で、食卓を囲めますものね。」
兄に続き、母と姉が返す。
兄は軍学校を出て、今は正規の軍隊に所属している。
中でも空亡を倒す異能者の部隊での地位は上なそうで。
ただ、最近は空亡の出現がなく、家に普通に帰ってきている。
年齢は二四歳。
異能は勿論、顔やスタイルの良さから縁談に溢れている。
父は兄に続ける。
「しかし、油断は禁物だ。落ち着きすぎている今の状況、必ず大きな戦は来る。」
「はい。承知しています。」
兄は笑みを浮かべて返事をする。
ちなみに、このなにを考えているのか分からないその笑みが、私はとことん苦手だ。
父は頷き、話を変える。
「紫乃。」
「はい。」
「お前に縁談をという一族がまた現れた。」
「そうなのですか。」
どうやら今度は姉の縁談話についてらしい。
姉は18歳で、女学校に在学中だ。
卒業したら嫁ぐのだけど、他の名家で一番条件のいい人を探している最中だ。
姉は容姿の美しさ、所作、会話術、立ち回りなんかが優れていて、これまた人気である。
相手も選び放題状態で、しっかりと水無瀬としての役割を果たせている。
それに比べて私は、地味で令嬢らしさにも欠けている。
女学校も同じなのだけど、あまりにも差ができすぎている。
優秀、と評価されている姉に対して、私は一般的。
きっと、私と近い存在になるのが嫌なんだと思う。
学校でも会うことがなく、家で会う時はとことん機嫌を悪くする。
そして、とても気の強い人だ。
「引き続き、母さんから花嫁始業を教わりなさい。」
「はい。お母様、よろしくお願いいたします。」
「ええ、勿論よ。」
話がまとまったらしい。
母は嫁いできた身だけど、水無瀬に相応しいと評価される容姿の持ち主。
品も桁違いで、お客様からも大層人気だ。
姉の所作や会話術は、しっかりと母を見て育ってきたのが分かる。
家族の会話を、私は何も言わずに聞く。
そのうちだんだんと遠くなって行く。
本当に窮屈だ。
やっと食事が終わって、部屋で内食や勉強、読書をする。
最後の方にお風呂に入って、準備をして眠りにつく。
これは、一人で気が楽だけど、家族を怒らせないよう慎重にいなければいけない。
それが何とも、しんどく感じてしまう。
布団で眠る時、障子からわずかに外の灯りが漏れている。
「いいな、、、月は綺麗で、夜でも光って。」
小さく独り言を呟く。
「必ず、夜が明けることも、羨ましい。私の夜は、、、」
ーーもう考えないでおこう。
今日も、同じ一日が過ぎる。
いつも変わらないまま。
きっと、変わることはないんだと思う。
ーーでも、少しくらいあの会話に混じりたい、、、ちゃんとした家族の笑顔を、向けて欲しいのに、、、
障子越しの月明かりが、静かに差し込む。
変わらない夜。
それが、私の日常。
そう思っていた。

