「いらっしゃい。」
「いらっしゃいませ。」
喫茶店を開けると、すぐに店主が微笑んだ。
今日は、久しぶりに店員もいた。
「こんにちは。」
いつもと同じ窓際の席に座って内職をしてを過ごした。
だけど、進まなくて結局本を読んだ。
陽真に本を貸したときも、好評だった本だ。
ーー陽真、、、
開いた席。
季節が流れても、彼に会うことはなかった。
私はずっと、自分の夜は明けないと思っていた。
だけど、陽真と出会った。
陽の光のような彼は、いつも照らしてくれた。
この空も、完全に明ける時が来るんじゃないかと思ったくらいに。
だけど現実は、そんなに甘くない。
私達が結ばれることは、そばにいることは難しい。
ーーそれでも、、、
こんなに胸が苦しくなるとは思わなかった。
心が痛い。
毎日、そんな日々を繰り返していた。
こんなに遅い時間まで、待ってしまう自分がいた。
外も段々と暗くなっている。
カランカラン。
喫茶店のドアが開いた音がした。
この時間に来る人は一番多いと思う。
だけど、無意識にその方向を見てしまった。
ーーえ、、、
こちらへ向かってきたのは。
「陽真、、、」
秋以来の、陽真だった。
「小夜。」
その顔つきは、以前よりも少し大人びていた。
顔つきが逞しい気がする。
少し、背丈が伸びた気がする。
帽子を取らないのは、人目を気にしているからだと思う。
冬らしい、制服に羽織も羽織っていた。
だけど、以前ほど笑っていない。
「ひ、久しぶりだね。」
「うん、、、ここ、座っても良い?」
何だか、初めて同じ席に座った時を思い出す。
「うん。勿論。」
陽真は座ってから、少し目線を逸らして呼吸を整えた。
そして私を見て言った。
「ごめん。ずっと開いに来れなくて、、、」
とても真剣で、でも寂しそうな顔だった。
私は、慌てて返す。
「そんな!仕方ないことだよ。でも、、、」
思わず、口に出てしまった。
「会いに来てくれたんだね。」
「、、、うん。話がしたくて。会いたくて。」
その言葉が、何だか沁みた。
「はいよ。」
「え?」
突然、店主がコーヒーを陽真の前に置いた。
「間違えて作ってしまったので、お題は入りません。」
「あ、ありがとうございます。」
陽真が返すと、店主は微笑む。
そして、少し離れたところから、店員が言った。
「二人が揃ってるの、久しぶりですね。」
私たちは顔を見合わせて、微笑むしかなかった。
向こうで店主と店員が何かを話し始めた。
私達も、話を始める。
「小夜、本当にばったり来なくなっちゃってごめん。」
「謝らないで。お兄様たちにも、その、色々言われたしね、、、」
「うん。あの後も、しばらく静真兄さんの目があってね。」
「やっぱりそうなんだ。」
静真さんは、かなり厳しさや強さのある印象だ。
一族同士の問題が起きてしまわぬようとった行動だろう。
「私も、お兄様とあの後話したよ。」
「大丈夫だった?」
すぐに心配の顔をする陽真に、やっぱり陽真だなと感じた。
「うん。大丈夫だよ。それから、修行もしてみたりしたんだ。でも、あんまり、、、」
うまく言葉にできなかった私に、陽真は何かを感じたように言う。
「、、、そっか。」
ーーやっぱり、元気ない、、、
「ねえ、陽真も修行してたんでしょ?」
「え、ああうん。」
「なんか、逞しくなったね。」
「そう見えるなら、良かった。」
陽真は少し微笑んだ。
だけど、少し視線を落として話す。
「ずっと、後悔してたんだ。あの日のこと、、、」
「陽真、、、」
「何も守れなくて、ズタズタになったよ。俺には、小夜の近くにいる資格がないと思ったんだ。」
「そんなこと、、、」
「だから、強くなりたくて、そればっかりで。」
思い詰めたような顔だった。
私なんかよりもよっぽど悩んできたんだと思った。
怪我が治っていて安心したけど、あまり触れない方がいいのかもしれない。
陽真は、また口を開いた。
「基礎体力とか、そうゆうのは上がったよ。異能の威力も。だけど、全然足りないんだ、、、」
ーー私と、少しだけ似てる、、、
私も、まだ全然足りない。
どうしたらいいのか分からない。
「だけど、、、」
陽真は小さく言う。
「一番は、記憶、、、」
「ーー」
私は、言葉が詰まって出てこない。
陽真の苦しそうな表情を思い出した。
「あの時、見た景色。」
陽真は、少し過去を話してくれた。
「幼い時、近所で中位空亡が出たんだ。」
ーー喪月が言っていた、、、
「何人も被害者が出た。あれは、狙って市民をボロボロにしたんだ。建物の下敷きになった人たちもいたんだ。」
私も、思い出した。
確かに東都で、幼いときはかなり大きな被害があった。
「みんな、感情も記憶も無くなって、虚な目をして、、、」
微かに、震えていた。
目線も、下へと下がっていく。
「どうでもよくなってしまう人もいたんだ。だけど、最後まで忘れたくない記憶と戦った人、感情が奪われて自暴自棄になった人たちは、、、」
絞り出したような声で言った。
「自分で、、、その命を、、、」
「そ、んな、、、」
「あのとき何もできなかった俺が、、、立ち尽くしてた自分が
いるんだ、、、」
衝撃的だった。
本当だったんだ。
見て来たことがなかったからと言い訳をしていた。
何度も遭遇してくうちに、聞いていくうちにやっと分かっていった。
私が思っているよりもずっと残酷なんだ。
思わず声に出てしまった。
「喪月は、、、」
陽真は苦笑して言う。
「本当に残酷だ。でも、、、分かりきっているあの攻撃に、耐えられない自分がいるんだ。だから、俺は弱い。兄さんにも、何度も言われた。」
陽真はもう一度、私の方を見た。
その瞳が、驚くほど寂しい。
「聞いてくれてありがとう。」
「陽真、、、私、、、」
彼は、苦しんでいる。
心の底から迷っている。
何か言いたい。
でも何を言えばいいのか。
ーー私の言葉なんかじゃ、、、
薄っぺらいことしか言えない。
それじゃ意味がない。
ーー私は、何度も助けてもらったのに、、、
思い沈黙だった。
私は、陽真の目を見て言った。
「ねえ、、、」
その時、何かが崩れる音がした。

