明けぬ空に、君を想う


教室には、賑やかな話し声が広がっていた。

その中で、私は一人考え事をしていた。


ーー少なくとも今のままでは、ずっと平行線だ。


兄に言われた言葉が、頭から離れない。

書店やら書庫を巡り、調べた。
『心灯』、『水無瀬家』のこと。
少しでも知りたくて。

その内容を、何度も繰り返していた。

このままでいるわけにはいかなくて、とにかく変えるために動いていた。

ーー異能者の能力には、、、


「水無瀬さん。」

「、、、あ、え、はい!」


名前を呼ばれ、振り向くと常盤さんがいた。
慌てて頭を下げる。


「すみ、あっ申し訳ございません。」

「ふふ、、、」


突然、常盤さんが笑った。
思わず顔を上げる。

ーー常盤さんが、私に笑ってる、、、?

着物の袖で、少し顔を上品に隠していた。


「あの、、、?」

「今までで一番、気が抜けていらっしゃいましたもの。」


周囲を見渡すと、すでに休憩時間だった。

さっきまで授業を受けていた記憶があったけど、終わっていた。


「先生も気づいていなかったようですし、安心なさって。」

「そ、そうだったのですか、、、」


常盤さんが、少しだけ柔らかく笑っている。
それが、妙に印象に残った。


「少し、お時間よろしいですか?」

「え、はい。」


声を抑えて、隣で話し始める。


「水無瀬さん。変わりましたね。」

「変わった、ですか?」

「ええ。前よりもーー迷いながらでも、進んでいるように見えました。」


その言葉に、少し息を呑んだ。


「よく、分かりますね、、、」


思わず、そう口にしていた。

常盤さんは目を細める。


「こんなに近くにいたんですもの。」


その一言に、言葉を失う。


「ずっと見ていた、というほどではありませんけど。それでも、人は案外、周りを見ているものですわ。」


静かに、でも確かにそう言った。

そして言葉を続ける。


「前は、、、止まっているように見えました。」


少しだけ、胸が痛んだ。

確かに、陽真と出会う間の自分は止まっていた。
動いたと思ったら、また止まってしまっていた。


「、、、そう、かもしれません。」


認めると、不思議と落ち着いた。


「今の方がいいと思います。」

「え?」

「感情がある分だけ、人らしいですもの。」


私は、何も言えなかった。


「ただ、それだけだと思い詰めてしまうようでしたので。」

「え、、、?」


常盤さんは、少しだけ視線を和らげる。


「周りが全て敵だとは、思わないでくださいね。」


その言葉に、はっとする。


「、、、ありがとうございます。」


常盤さんは、安心したような顔をしてから、いつもの上品な表情に戻っていた。


「どういたしまして。」


今度はそっちで頭がいっぱいで、帰り道も家でも、修行中でも考えこんだ。

本当に、そうなのかもしれない。

常盤さんが、私のことを見てくれていた。
だから声をかけてくれた。

使用人のことも。
文子さんのことも。

あの時、私のことを心配してくれたように見えた。

私と関わるのはなるべく避けたい。
異能が使えない、容姿も地味な私を、水無瀬家として受け入れ難い。

それすらも、全部が全部そうではないのかも知れない。
私の、思い込み。

それでも、分からない。
本当にどう思われているのかなんて。


けれどーー

視野が狭かったのは、確かだった。


「陽真のことも、、、」


ちゃんと、見えていなかった。

その時、ふと思い浮かぶ。


「、、、お兄様も。」