「その辺にしておけ。」
一つの声に、一瞬足が止まった。
とても静けさの圧を感じた。
兄もその手を緩めたのが分かった。
恐る恐る振り向くと、二人の男性が立っていた。
一人は二十代前半、兄くらいだろう。
もう一人は十八,十九、私たちよりは上そうだった。
「これ以上事を大きくしないでくれ。昴。」
二十代前半の人が兄の名前を呼んだ。
ということは知り合い?
これ以上事を大きく?
そう思いながらも、二人の顔立ちが似ていることに気づく。
そして更に、雰囲気が違いすぎるけど陽真にも似ているのに気づいた。
それを聞いて兄は、陽真から手を離した。
「はいはい、静真。君は初めましてだね、結真君。」
もしかして、この人達が、、、
十八,十九くらいの男性が口を開く。
「はい、始めまして。弟を助けてくださったんですよね?ありがとうございました。」
丁寧に挨拶をしている。
その表情は、少し社交的笑顔だった。
この人達が、陽真のお兄様達、、、
そして静真さんが言った。
「あまり弟をからかうな。行き過ぎた行為こそ、両家の問題につながる。」
結真さんは陽真の近くまで来て言う。
「こんなでも、こいつはうちの一族に変わりないので。」
そう兄に告げた。
兄は渋々と頷く。
「はあ。分かってるよ。じゃあ俺はここで。」
そう言って去っていく。
私は慌てて兄に言った。
「あの、お兄様、今日のことは、、、」
家族にバレたらまずい。
その気持ちが強かった。
兄は少し真顔になっていった。
「俺が言わなくても、一族は気づく。必ず。」
そう言って去っていった。
笑み以外の兄は、本当に珍しかった。
いつも以上に、感情を感じた。
兄はあんなに言葉が出るのかと驚いた。
そう、兄は忠告しに来たのだ。
何も言えず兄の背中を見送った。
そして陽真の兄に頭を下げた。
「ありがとうございました。」
静真さんは首を振った。
「いや、弟があまりにも弱すぎるせいだ。」
そう言われてシュンとしたけど疑問を抱く陽真。
「すみませんでした。あの、どうして兄さんたちがここへ?」
確かに、軍隊なら東都の中心部を巡回しているはずだし、先に空亡が出たのもそっちだった。
私の兄も本来、ここにいないはず。
静真は冷静に話す。
「最近、中位の空亡が滅多に現れなくなった。東都の中心部に。まさかこちらに流れているとは思いもしなかったがな。気配を感じて様子を見に回っていたんだ。」
強い異能者は空亡の気配を感じ取ることもできるそう。
私もそれに納得した。
「そうだったんですね。」
しかし、静真の表情は少し変わった。
「しかし、少し遅かった。気配を感じ取り先にたどり着いたのは昴の方だ。あいつが先に着いていなかったら、本当に危なかった。」
「お兄様が、、、」
「本当に、周りを見る力も高い。そして速さ、恐らく一条家に対抗して鍛え込まれたんだろうな。」
「、、、」
確かにそんな事を聞いたことがあるかもしれない。
結真も私を見て言った。
「対抗してない一族だったら、俺も尊敬の意思を向けたいくらいさ。」
ニコニコとしながら、今度は陽真に向かって言った。
「速かったでしょ?昴さん。」
陽真は弱った声で言った。
「凄く、、、見るのが精一杯で、体が追いつかなくて、、、」
結真は頷く。
「そうだろうね。」
やっぱり、兄の優秀さはとんでもない。
家のために動き、余裕さえ見せる。
ただ、関心ばかりしていられない。
陽真を傷つけすぎている。
私が出来る仕返しとかないのかな、、、
そんな事を考えていると、静真が言う。
「本当は、俺たちがするべき役割だった。」
そう言って陽真を見る。
「お前は甘い。考える力が足りないんだよ。」
冷静で落ち着いた声のまま言う。
「鍛練もやっているつもりだろう。周りを気にかけているつもりだろう。だがそれで通じるのは下位空亡までだ。言葉や感情に惑わされ、圧倒的強さに対抗できなかった。違うか?」
陽真は俯く。
「違いません、、、」
静真は一度、ため息をつけてから言う。
「まあ、相手が強いこと。お前には無茶だったことも分かる。ただ、、、」
静真は一段と厳しい顔になる。
「小夜さんとの関係。」
私は、目を逸らした。
「こうなることも分かっていたはずだ。なのに、どうせ発端はお前からなんだろう。」
私は間に入る。
「いや、そんなことは、、、私のせいですし、、、」
陽真は私に言う。
「元はと言えば俺から、全部、、、」
「陽真、、、」
静真は厳しく言う。
「人の挑発することも、買うことも。馬鹿のやることだ。」
そこに結真も言ってきた。
「反抗して返り討ちにされたってとこだね。頭を使わなきゃ。いや、そもそも仲良くなっちゃダメだって気づかなきゃ。」
「、、、」
何も言い返せない陽真を見てから、静真は私の方を見た。
「小夜さん。」
「はい、、、」
「うちの弟から始まったことは申し訳なかった。あなたの状況も何となく分かっている。ただ一族のためだ。今後一切、弟との関係を切ってくれ。」
冷たい風が吹いたような感覚だった。
私にできることはない。
そして一族の平和のためには仕方のないことだとも分かる。
静真さんの目は真剣だった。
私より先に声を出したのは陽真だった。
「待ってください、、、そしたら、小夜は、、、」
陽真は、私を守る人がいないことを心配してくれているんだと思う。
それはありがたかったけど、やはり両家が気に入るはずもない。
それを聞いて静真は言った。
「小夜さん、あなたが町中にいれば、人々のなかにいれば、異能者は必ず市民を助けに来る。軍隊も、この辺りに中位空亡が出たことで増えるだろう。」
そして陽真にも言う。
「お前が守りにくるよりはマシだろう。」
「でも、、、」
陽真は詰まる。
結真はわかったように言った。
「ま、それで納得できないのは、陽真が小夜さんのこと好きだからってのは分かるけどさー。」
「いや、それは、、、あっ。」
陽真とハモってしまった。
静真はため息をつく。
「やめておけ結真。とにかく、今日で関係を断つように。行くぞ、結真。」
「はい。」
私は、思っていたことを口に出す。
「あの、、、!」
結真が振り向く。
「私たちが一緒にいられる道って、本当にないのですか?そもそも、どうして一族同士がこんなに不仲なのでしょう
か?」
結真はふっと笑う。
「これにはふかーい理由があるんだよ。元々ライバルみたいなところはあったんだけどね、最近の当主あたりで色々あってね。ヤバいレベルまで来ちゃったの。」
「色々って、、、」
静真が口を挟む。
「とにかく、一族を説得するのはほぼ不可能。駆け落ちは駆け落ちで、その後の一族が暴走するだろう。おとなしく他の縁談を待ったほうが身のためだ。」
「そんな、、、」
もう、陽真とは一緒にいられない、、、
胸が痛んだ。
そして二人は歩き出す。

