着いた途端、兄は陽真を放り置く。
「陽真!」
私は陽真の横に駆け寄った。
「ごめん。大丈夫だよ。」
精一杯笑ったんだと思う。
そして、兄に向けて言った。
「助けていただき、ありがとうございました。」
それを聞いた兄は、私たちの方を向いて言った。
少し呆れた顔で言った。
「はーあ。本当は助けたくなんてなかったけどね。あまりにも目立ちすぎていたから。」
まあ、そうだろうとは思った。
いくら出来損ないの妹や敵対している一族の息子でも、一般人への被害を抑えることが最優先だ。
それが使命だということを、兄は分かっている。
要するに家のため。
兄は陽真の方に視線を向けた。
陽真が息を飲んだのが分かった。
それを面白がって兄は言う。
「俺が誰だかちゃんと分かっているみたいだね。」
陽真は恐る恐る答えた。
「はい。ほとんど面識はありませんが、顔は遠目で見たことがあるので。水無瀬家長男の、水無瀬昴さん、、、」
兄はにっこりとした。
「正解。お互い存在は知りきっているけど、顔合わせなんて滅多にしないからね。」
そう、普通は知りきっているのだ。
敵対しているから。
あまり知らないのは、本当に私くらい。
そして陽真曰く、名家の集まりでもほとんど顔を合わせないようにしているみたいだ。
兄の表情は段々と落ちていった。
笑っているのに。
「で、どうゆう組み合わせ?」
その声も確かに笑っていた。
でも、怒っていた。
何か言わなくちゃいけない。
こうゆう時、誤魔化せる?
いや、兄の目は騙せない。
「あ、その、、、」
私は詰まった。
それを見て兄は言う。
「まあ、聞かなくても分かるんだけどね。」
全て見透かしたような目で見てきた。
やっぱり誤魔化せない、、、
「両家の関係くらい知っているよな。お前でも、水無瀬家と一条家がバチバチだって。」
「はい、、、」
「別にさ、ライバルとかで関わることはあるよ。水無瀬も、一条も同じ仕事をしているからね。だけど、まさか恋仲まで行くとは。」
「いや、その、、、」
私は何か刺さるような感覚になる。
図星だった。
別にお付き合いしましょう、とはひと言もなってないけど、私は確かに陽真が好きなんだと思う。
陽真がどう思っているかは分からないけど、多分少しは良く思っているから助けてくれるんじゃないか、とも分かる。
兄はまたため息をつく。
「はあー。寄りによって一番ことが大きくなりそうな状態だ。両家の戦争になるよ?」
そこまで?とは言えない。
本当にそうなりそうな気がする。
「その、申し訳ございません。」
謝ってもなんにも解決しないことだけど、それしか出てこない。
こうなることは、薄々分かっていた。
だから本当に申し訳ないとは思ってる。
兄に、というよりは、陽真に。
お構いなく兄は続ける。
「ただでさえ、何にも満たせない出来損ないのくせに。」
言われ慣れているのに痛む言葉。
「本当に、迷惑しかかけないな。」
分かってる。
分かってるよ。
「ご、ごめんなさい、、、」
「なぜか一条の奴に守ってもらっちゃって、同情でも誘ったの?図々しいね。」
もうそれ以上言わないで、、、
「だったら、、、」
陽真の声だった。
そして立ち上がって私の横に立った。
そして兄に近づいて言った。
さっきより体力が戻ったみたいだ。
「だったら、誰が小夜を守るんだよ!」
驚くことに、さっきまで私同様ビビっていたはずだった陽真が叫んだ。
兄に向かって叫ぶ人なんて、見たことがない。
父でさえ兄の優秀さから怒っているところなんて私の中では見ないのだ。
兄の表情が動いた。
陽真は続けて叫ぶ。
「あんたたちが誰も、、、」
そして私は、この一瞬で何が起きたか分からなかった。
視界から兄と陽真が消えたのだ。
バン!と鈍い音が聞こえた。
兄はものすごいスピードで陽真の首を掴んで壁につけた。
この状況を理解するのに、かなり時間がかかった。
「、、、陽真!?」
陽真を見たあと、兄に視線をずらす。
その顔は笑った顔にさっきより怒りを感じた。
完全に怒ってる。
兄は陽真に圧をかけるように話す。
ここまで怒っているのも初めて見た。
「守る価値がないって言ってるんだよ。分かるだろ?何のために護衛をつけてないか。迷惑しかかけない出来損ないに。だから、君も守る必要なんてないんだよ?そいつの心がどうなったって何にも影響ないんだよ。死んだって何も変わらない。」
私より、陽真の方がよっぽど感情が溢れていた。
でも力を入れるほど首が絞められているのが分かった。
陽真は抵抗しているけど、全く引き離せない。
「お兄様やめてください!」
「お前の指図は一番聞きたくない。」
どうしよう、、、
私が何言っても火に油だ。
今私が助けに行っても、突き飛ばされて終わり。
陽真の感情が強くなったら更にお兄様の機嫌が、、、
その時、陽真はギリギリの声で言う。
「それ、でも、、、」
その言葉に、兄は返した。
「守れなかった奴が何を言ってるの?」
陽真の表情が動くことが見えた。
兄は続ける。
「いつも下位の空亡倒して、守れる気になった?ヒーローにでもなった気分?中位相手に太刀打ちできない異能者は、はっきり言って名家を名乗る資格もない。俺が来なかったら、お前もあいつも、一般市民も、みーんな喰われてたよ?」
やめて、それ以上言わないで、、、
陽真はかなりそれが突き刺さっているみたいだった。
そんな陽真を見て、兄は面白がったように言った。
「無理もないかー。陽真君も、出来損ないみたいなものだもんね。」
それはとどめのように陽真の気持ちを壊したようにすら見えた。
それと同時に、私は驚きを隠せなかった。
「え、、、」
陽真が、出来損ない、、、?
兄は私を見て言った。
「やっぱり、全然知らないんだね。陽真君は心配かけたくなかったのかな?それとも見栄?まあ何でもいいよ。俺は知ってるよ。同級生だったからね。一条の長男と。」
衝撃に衝撃が重なりすぎている。
「それって陽真の、お兄様、、、」
「聞いてるよー。君、異能は基礎と応用を自分に合わせたものしか使えないんでしょ?おまけに成績も兄2人には及ばない。後継ぎに全く関与しないから自由に生活してるって。」
「あ、、、」
いつしかの、陽真の言葉。
『兄貴たちは凄くてさ。』
『俺、比較的自由だからさ。』
『あんま優秀じゃないよ。』
『期待なんて、そんなされないよ。』
明るく言っていて、あまり深く入らないようにしていた。
私は自分のことばっかり、語っていた。
私、何にも知らない、、、
自分が情けなかった。
陽真の目から、光が消えていく。
抵抗する力がなくなっていた。
視線も定まっていなかった。
首から離そうとしていた手が落ちた時、兄は笑った。
「本当、両家の仲が良かったら、お似合いなのにね。」
私は体から熱いものを感じた。
凄く胸が痛くて、苦しかった。
今すぐ陽真を助けなくちゃとか、兄を殴ってやりたいとか、そんな事が浮かんだ。
ひどい、何でそんなことばっかり、、、
陽真が、、、
鼓動が速くなる。
心臓の痛みを感じた。
行かなきゃ、行かなきゃ陽真が、、、
「やめて!」
そしてその方向に、走り出した。

