明けぬ空に、君を想う


陽真は再び、喪月に向き直る。
喪月はそれを見て笑いながら話す。


「怖い顔しているな。」


陽真の刀に入る力が、強くなっているのが分かった。


ーー陽真、、、


陽真が再び、その刀に力を込める。
雷の音が、聞こえたような気がした。

陽真は走り出す。
いきなり現れた黒い矢を斬りながら。
目の前にいるのに、矢が邪魔をして攻撃を当てられなかった。
喪月は笑ったままそこにいる。


ーーあれは、、、?

私の目に留まったのは、その矢が少し変わったこと。
影のように伸びて、斬った後もじわじわと滲んで残っている。

陽真もそれを目で追いながら戦っていた。


「やはり、このあたりに軍はいないな。」


突然、喪月が陽真に喋り出した。
少し後ろにいる人達のざわめきの中、私にははっきりと聞こえる。


「今頃、中心部か帝都の方に出現した空亡を相手にしているんだろうな。」

「、、、」

「なら、決着は分かった。俺が勝ち、ここにいるものは全滅だ。」


陽真の表情が揺れる。


「黙れ。」


陽真とは思えないほど強い口調、低い声。
喪月はそれを面白がっている。


「まあいいじゃないか。俺はずっと楽しみにしていたんだ。近頃、軍の手が届かないこの辺りから仕掛けようと思っていたのに、邪魔をしてきていたやつを倒せるからな。」

「ーー」


陽真は目を見開く。
私自身も、驚きを隠せなかった。


「ま、待って、、、なら、、、」

「まさか、、、!」


思わず口に出てしまった私たちの言葉を、喪月の耳は拾う。


「狙っていたんだ。最初に邪魔されえた時からずっと。何度も下位空亡を配置して、遭遇させた。」

「じゃ、じゃあ、、、今も、、、」

「お前たち邪魔者を倒し、その異能を手に入れる。そのために直々に来たんだ。」


ーー待って、、、


そのまま陽真が口にした。


「お前、たち、、、?」


喪月は笑いを抑えきれない、という声で言った。


「そんなお守り一つで、隠せると思ったのか?何の異能かまではっきり見える。」


背筋が凍った。

喪月は続ける。


「安心しろ。お前一人ならすぐに終わる。なあ、一条陽真。」

「、、、」

「そっちの水無瀬小夜の異能も、簡単に取れそうだな。」


その瞬間、喪月の姿が消えた。


「え、、、?」


私の真横にいた。
黒い闇をまとったその手が伸びてくる。

起こる何もかもが速すぎて、私は動けなかった。
その時ーー

バチ!

陽真の雷の音が響く。
その手は引っ込み、喪月は距離を置いた。

振り向くと、陽真は喪月を睨みつけていた。


「小夜にさわるな。」


低く、響いた声で言った。

そして、私に振り向く。


「大丈夫?」


驚くほど柔らかい声だった。
その表情は、本気で私を心配してくれているのがわかる。

ーーごめんね、陽真、、、


「うん。ありがとう。」


それを聞いて、再び喪月に向き直る。
陽真の霊気が上がった。

そして、素早く走り出した。
喪月に向けて刃を向ける。


「上がったな。やはり人間の感情は面白い。だが、それも時期に消える。」

「どうゆう意味だ、、、」

「気づいていないのか?その矢、かわしきれないだろう。」


その瞬間、黒い矢が伸びだし、陽真にまとわりつく。


「陽真!」


陽真は交わしたけど、一本の矢がかすった。

矢は消え、陽真の表情が一瞬にして苦しそうになっていた。

そして、喪月を睨みつけた。


「陽真!?」


ー一体何が、、、

すると、喪月が私を見て言う。


「俺の得意攻撃。記憶を刺激するものだ。」

「記憶を、、、?」


喪月は、陽真に言う。


「そうか。それは苦しい記憶だなあ。」

「ーーやめろ、、、あの時は、、、っ」

「何も感じない、光を持たない目が怖いのか?もう見たくないか?」


嘲笑うような顔で、声で言う喪月。
陽真は、立つことさえ苦しそうだった。

体のバランスがブレる瞬間、風のようなものが陽真を吹き飛ばす。


「、、、っ」


陽真の体は地面に打ち付けられる。
喪月はまた何かしようとしている。


「陽真!」

「さ、小夜、、、下がって、、、」

「でも、、、!」


陽真は、体を起こす。
だけど何かを必死に振り払うような、そんな表情をしていた。


「水無瀬小夜。」


喪月が私を呼んだ。


「そいつが見たのは、俺と一度会った時の記憶だ。」

「会った時、、、」

「思い出したくなかったんだろ。心を失った人間の顔も声も、立っているしかできなかったその無力さを忘れたかったんだろう。」


私は、言葉も出なかった。

ただ、思うことは、、、


「どうして、、、どうしてそんな苦しめることばっかり、、、」

「俺たちの。」


私の言葉を遮るように言った。


「目的だからだ。」

「そんなの、、、」

「そもそも。全ては人間から始まったことだ。」

「ーー」


喪月は、低く冷たい声で言った。

人間と空亡。
どうしてこうなってしまったのかは分からない。
分かっているのは、、、

ーー空亡が人間を恨んでいること。


「お話はここまでだ。」


喪月が言った時、陽真は無言で立ち上がった。
その表情は苦しそうだった。


「掠っただけなら、まだ立てるのか。」


感心したように、喪月は言った。
陽真は私を見る。


「小夜。もう、大丈夫だから下がって。」


言い聞かせるように言った。
私は避けるしかなかった。

陽真は唇を噛んで、体を安定させて、呼吸を整えた。
そして、一気に走り込んで喪月に刀を向ける。
喪月は笑った。


「その怪我で勝てると思っているのか。面白い。だが、記憶とは厄介だからなあ。」


そう言った瞬間、陽真の体が一瞬止まった。
すぐに目線をずらし、その後体がぐらつく。


「、、、っ」


記憶が頭に残っているんだと分かった。


「力だけでなく、心まで弱いのか。あまり楽しめなかったな。もう終わりで良い。」


喪月が手を、少し当てた。
それだけなのに、とてつもない威力だった。


「陽真!」


建物が崩れ、陽真は投げ飛ばされた。
崩壊した建物の一部に打ち付けられ、そのまま落ちた。

私は思わず駆け寄った。
陽真は血を流している。

ーーどうしよう、、、

何もできない自分が、ただここにいる。
周りの人達の戸惑う声さえ遠く感じる。


「くっ、、、」


陽真の苦しそうな声が、表情だけが、はっきりと見えている。

私は体の感覚がおかしくなった。
冷や汗が出ていた。


「ひどい怪我だなあ。はあ、でもまあまとめて終わりにしてやるから。」


喪月がそう言い、手を構えた。