明けぬ空に、君を想う


春の東都は、にぎやかだった。

色とりどりの着物、袴。
人力車の音と、店の呼び声。

けれどーー

この街にも、空亡が現れる。

窓から景色を見下ろしながら、私はぼんやりと立っていた。


「あっ、、、もう行かないと。」


一人呟き、鏡で確認する。
えんじ色の袴、生成りの野花の着物。
ハーフアップをリボンで止めた髪。

「少し長くなってきた、、、」


そして部屋を出た。

私は水無瀬小夜。
女学校に通う十六歳。

廊下を出てすぐだった。
運悪く姉の紫乃と鉢合わせた。

巻き髪をハーフアップにした髪は、存在感を感じる。
私と同じえんじの袴に、牡丹が大きく描かれた華やかな着物を合わせていた。
くっきりとした顔立ちに、化粧をしたことでより華やかさを増している。

私よりずっと最悪、と言わんばかりの顔で見てきた。


「はあ!あんたまだ居たの?朝から気分が最悪だわ。」


やっぱり言った。

私だって出来ることなら会いたくなかった。
こんな反応されるから。


「申し訳ございません。すぐ行きます。」


とりあえず謝ると、姉は更に不機嫌な顔をした。


「あーもういい。あんたが前でうろうろしてるのも嫌。私の後に出なさい。」


なんて勝手な。
私が間に合わなかったらどう責任を取るのか。


「あっ、はい…」


ーーまあそんなこと考えてないか。


姉が出て行ったを確認した。
護衛付きで車に乗って、優雅に出ていく。

私は外に出ようと玄関まで行く。

そしてまた、会いたくなかった人物に遭遇。 
母の千鶴と、兄の昴だった。


「あら、まだあなたいたの?本当のろまね。」


朝っぱらから2回連続で邪魔者扱いされる身にもなってほしいです。

という本音は勿論言わず、頭を下げた。


「申し訳ございません。すぐに出ます。」


私の言葉に、やはりイライラとしている。


「はあー。早く行きなさい。あなたの陰気さが移るじゃない。」


母は呆れた様子で答えて、客室の方へと行った。

その横の兄が、笑って言ってきた。
馬鹿にするような、呆れるような顔で。


「朝から母さんの機嫌を損ねさせるなよ。」

「申し訳ございませんでした。」


それだけ言う。

これが一番、家族を怒らせない言葉だと思うから。
反論する気にもならない。

そんなやり取りをして、やっと家を出れた。

派手な正門とは反対の裏門から出る。
一人歩いて学校に行く。

うちの一族は、私を痛い目に遭わせたがる。


ーーまあ、私が気に入らないのも分かるけど。


ここまで あからさまだと、流石に傷つく。

生活できて、学校にも行かせてもらえてる。
それでも、普通の家族に向ける笑顔を見せてくれないこと、価値がないとされること、少しだけ胸が痛む。

道を目立たず歩く私は、どこからどう見ても平凡な庶民だ。

これでも一応、長年名家とされている水無瀬家の次女として生まれた。

だけど、守られることはない。

原因は容姿。
そして、異能。


「、、、」


足が止まりそうになる。
けれど止まらない。
止まったら、全部崩れてしまいそうで。


ーーそれでも、少しくらい。


思ってしまう。

価値がなくてもいい。
ただ一度でいいから。


ーー守られてみたかった


景色が眩しいほど鮮やかな道を歩く。


ーー想って欲しかった