明けぬ空に、君を想う


私は学校の帰り、不安の気持ちを抱えながら喫茶店に向かっていた。

陽真とのことを考えていた。

人気のない自然道で、少し立ち止まった。


「やっぱり、直接伝えた方が良いよね、、、」

「何を?」

「え!?」


聞き慣れた声が響く。
振り返ると、陽真が立っていた。


「大丈夫だった?一族の集まりは。」

「うん。あのね、、、」


言葉に詰まった。
だけど、言わなくちゃいけない。


「もう、私たち、、、会わない方が、良いと思う、、、」


私の言葉に、陽真の表情は揺らぐ。
かなり驚いているみたいだった。


「、、、どうして?」


私は、考えながら答えた。


「家同士のこと、私が思っているよりずっと深刻だった。きっと気づかれたら、陽真にも迷惑がかかっちゃうでしょ、、、?」

「、、、」 


陽真は、考えたような表情をした。
私は続ける。


「それにね、元々私は、守られるほどの人じゃないから、、、だから、もういいの。」


それだけ言って、陽真に背を向けて歩き出した。

ズキズキとした感覚があった。
早く、ここから立ち去りたかった。

その時、私の手が掴まれた。
指先に、熱が移った気がした。
声が聞こえた。


「待って、、、」


はっきりと聞こえたその言葉に、私は驚きを表情に出してしまった。

振り向くと、陽真が私を見ていた。


「……分かってる。」


少しだけ、目を逸らしながら、考えながら陽真は言う。


「良くないってことも、危ないってことも。」


少しだけ、力が強くなる。


「それでも、離れたくない。」


今度は私をしっかり見て言った。
その揺れない瞳のまっすぐさだけが、映っていた。

私は、まだ固まったまま。
言葉を探していた。

陽真は、間が空いたあと、気づいたような表情をして慌てた。


「ごめん、勝手だったよね。」


申し訳なさそうな表情した。
そして、そっと手を離した。


ーーずるい、、、

そんな顔で、そんな声で、そんな事を言ってしまう。

声に出した。
震えていて、感極まっていた。


「陽真は、ずるいよ、、、」

「小夜、、、」


心配そうに見つめている。

それが何だか、締め付けられるような感覚で。
抑えられなくて、言葉が勝手に溢れてくる。


「陽真が優しいから、私はどんどん陽真に甘えちゃうの!図々しくなっちゃうの!」


つい強く言ってしまった。


「ごめん、、、」


陽真は目を見開いていた。
だけど、少し考えるような表情をしてから、私をもう一度見た。

優しい声で、優しい顔だった。


「小夜は、、、甘えちゃ駄目なの?」

「え、、、」


突然の言葉に、私は驚きつつも、目を逸らして呟いた。


「駄目だよ。私には、何にもないから。」

「そんなことない。」


迷いなく言う陽真。
私は逸らした目を、ゆっくりと陽真に向けた。

この時、少しだけ、陽真が羨ましかった。

異能を使えて、強くて、整った顔立ちで、気遣いも、人を想えるところも全部。

だから、こんな私のことを守ろうとしてくれるんだと分かった。

そして、自分と比べた。


ーー私は、陽真のそばにいるべきじゃない。

とても釣り合う存在じゃない。
だから、それを伝えなくちゃいけない。


「私には何もない。家では恥でしかなくて、求めていい立場でもないの。」


ずっと言われてきたこと、思っていたこと、自覚していたこと。
全部がスラスラと出てくる。


「私は、守られる側にいて良い人じゃないでしょ?同情だって言うならいらない。」

「同情なんかじゃないよ。」

「だったら何なの?」


ーーあ、、、


言い過ぎてしまったと気づいた。
目を逸らしてしまった。

私が怒るのは違う。
陽真が責められるのも違う。

何で心配してくれてる人に、守ってくれてる人にそんな事を言ってしまったんだろう。

後悔の焦りが全身を覆う。


「ごめ、ん、、、」


微かな声しか出なかった。
そして陽真を見た。

陽真が驚いた表情の後、考えながら口を開く。


「それは、、、なんて言うか、、、」


言葉にできないみたいだった。


だけど、私は気づいた。
陽真の顔が、赤かったこと。

それを見て、私は何かを感じた。

心臓の音がうるさい。
顔が熱くなっていく。


ーー待って、それって、、、

この気持ちを持っちゃいけない。
心の中を遮るように声を出した。


「陽真、、、もう、言わなくていいよ。」

「せめて今だけでも。」


私の言葉からすぐに、陽真が言った。


「え、、、?」

「近くにいちゃダメかな?」


真剣な陽真の目が見えた。


「俺はね、小夜が思ってるほど、、、あんま優秀じゃないんだ。」


突然、馴染まない言葉を言う。
そして、目を少し逸らして話す。


「兄貴達は凄いよ。俺は、期待なんてされない。だから当てもなく、喫茶店に行ったんだ。」


私は、言葉が出なかった。
陽真は続ける。


「そして、小夜に出会った。楽しくてさ。だからもっといたいって思うようになっちゃったんだ。」


ーーそれは、、、


それは、私を気遣ったセリフなのか、事実なのかもよく分からない。
少なくとも、私にない物をたくさん持ってる陽真は、そうは見えない。
凄い人だと思ってる。

陽真は、優しく笑みを浮かべて言った。


「だからこれからも、小夜といたい。」


私はそれを、すでに心の中で受け入れていた。
笑みが出てしまった。

ーーダメだな、私、、、

何も言わない私に、陽真は続ける。


「これは、俺のこと。小夜は、どうしたい?」


ーー私は、、、

思わず、口に出てしまった。


「そばにいたい、、、陽真の、近くにいたい。」


その言葉に、陽真は笑顔になった。

優しくて、暖かい笑顔。
陽が見えたみたいな気持ちになる。


「そっか。一緒だね。」

「、、、うん。」


答えると、陽真は明るく切り替える。


「じゃあ行こっか。喫茶店。」

「うん。」


二人で、喫茶店に向かう。

陽真の横を歩いていて思った。
近くにいる陽真に安心していた。

初めから分かっていたけど、私と陽真の関係は期限付きだ。
私たちが望んでも、叶うことはない。

それでも、今だけは。
そう言う気持ちになった。

この時の空は、青く晴れていた。

私は声に出した。

「もう夏が来るね。」

「そうだね。もう、そんな時期か、、、」