明けぬ空に、君を想う



「また、あんたと隣なのね。地獄だわ。」


突然聞こえた声の正体は姉だった。

何度も思ってるけど、そんなこと私に言われても仕方ないことだ。

ここで言うことは、一つ。


「申し訳ございません。」


丁寧頭を下げても、姉の機嫌は戻らない。
のだけど、、、


「紫乃様。」


声がかけられた瞬間、いやその直前から、姉はすぐに表情が変わった。

そしてすぐにそちらを向いて、声を出した。


「ご機嫌よう。信隆様。幹恵様。」


父の弟夫婦だった。
私がいることにも気づき、小さく言った。


「ああ、小夜様も、、、」


一瞬だけ、言葉が止まった。

私は一瞬戸惑って、お辞儀しかできなかった。
姉の気配が若干怖くなった気がするのは、恐らくそのせい。


「相変わらずお綺麗ですな。」


信隆さんが言う。
勿論、姉の紫乃の方に向けて言った。


「あら、そんなお世辞は効きませんわよ。ですが、ありがとうございます。」


ニコニコと話す姿は、私といる時と天と地の差。
さっきまでの表情が、嘘みたいに消えていた。
相変わらず、他の人には礼儀も品も兼ね揃えた美人な娘だ。


「本当に素敵なお方ですわね。縁談も山のようだと聞きましたわ。」


幹恵さんも関心の目を向ける。
姉は、当然ですという気配を感じた気もするけど、当然丁寧に返す。


「私には勿体無いほどですわ。」


姉は親族でも他族とも仲が良い。

ーー見習うべきなのだと思う。


「さっきの反応は何?」


挨拶も終わり、隣同士の私たちにしか聞こえない声で言ってきた。

私が答えに迷っていると、姉はお構いなしに言ってきた。


「いくら容姿が悪くても、礼儀くらい持ちなさいよ。本当に、あんたと同じ血が流れてるのが嫌なの。分かるでしょ?」


まあ確かに、礼儀はなっていなかった。
堂々ともしてない。
微妙な私は、まんま態度の出てしまう。


「これ以上私に恥をかかせないで。良い加減にしなさいよ、何とか言いなさい。」


小さな声からも伝わった。
かなり怒っていた。
その顔も、赤く、きつい表情だった。


「申し訳ございません。お姉様にご迷惑をかけないように気をつけます、、、」

「何で、、、あんたなんか、、、」


姉からは、いつも怒りを感じる。

兄や母とは違う、見下しと言うよりは、本当に心から嫌なんだと思う。

そして、表情や声色から、焦りも感じる。

私と並べられること自体が、嫌なのだと思う。
虐げられることも、期待されないことも怖い。

だからそれを恐れて、必死になっている。

当然のことだと思う。


ーー私だって、、、

昔は認めてもらいたくて、必死になっていた。
何度も試して、何度も失敗して。

ーーそれでも、届かなかった。

だけど、元々価値観が庶民派の私には、令嬢としての振る舞いも身なりも合いにくい。
増してやこんな環境にいれば、堂々と、なんて無理だと思う。


ーー好きでこの家に生まれたわけじゃないのに。