明けぬ空に、君を想う


少しだけ日差しが強くなった道を歩きながら、今日も、喫茶店に向かう。

あの一件があってからは、下位空亡の姿は見えない。


ーーそれが、かえって不気味に感じられる。


噂でも耳に入る。

あの時、やっぱり東都の中心部や帝都には空亡が何体か現れたそうで、世間を震えさせていると思う。

そんなことを思いながらも、喫茶店の扉を開ける。


「いらっしゃい。」

「こんにちは。」


「小夜ー。」


その声を聞くだけで、少し肩の力が抜ける。

陽真が窓際の席に座っている。
最近は暑いので、シャツを捲っている。


「早いね。」

「まあね。」


いつものように、他愛のない話をしたり、本の話で笑ったりして過ごす。

周りから見てどう思うかは分からないけど、それでも、今はこのままで良い。


ーー周りから見て、ね、、、


私の一族はどう思うだろうか、と考えてはいる。

けれど、そもそも私に興味がないのだからしばらくは気づかないだろうという気持ちもある。

今日も記録したいくらいの嫌味と無視だった。

ただ、最近空亡の多数出現によって兄が任務でいないため、嫌味を言う数が一人減っている今でさえ。

そう、一族と言えばで一つ思い出した。

もうすぐ一族の集まりがある。
私も一応、表向きは参加しないとなので憂鬱だ。

ーーうーん


「小夜?」

「あっ、ごめんね。」


うっかり考え込んでしまった。


「今日は一段と難しい顔してるね。」


陽真に余計な心配をかけてしまうのも良くないけど、何でも言ってしまうようになったのも事実。
ここは素直に話す。


「今日の夜、家の集まりがあって、、、。」

「ああ、それは大変だ。でもそっか、小夜の一族も、、、」

「陽真もあるの?」

「うん。最近の空亡のことでさ。」


やっぱり異能一族にとってはかなり重要なことらしい。

私は、その場にいても話すことはない。
ただ、静かに耳を傾けるだけだ。


「大丈夫?」


陽真は心配してくれるみたいだ。


「大丈夫だよ。別に、何かされるわけでもないから。」

「そっか。終わったらまた会おう。」

「うん。」


そう、特に何かされるわけでも、留守番なわけでもない。
ちゃんと一族の形式上、全員参加やら何やらに従っている。
一族以外から見れば、ほとんど普通の名家と一緒だった。

ーーたまに噂で私の事情を知っている人がいるけど。


「そろそろ出ようか。」

「そうだね。」


夜から集まりが始まるので、早めに帰ることになった。
陽が落ちるのも、随分遅くなった。

人の多い街中に入る手前まで来た。
陽真は心配そうにしつつも、いつもの笑顔で言った。


「じゃあ、また明日。」

「うん。またね。」


私も笑って返す。

本当は家の近くまで送ると言ってくれていたけど、私たちの顔を知っている人が見たらどう思うか分からない。
水無瀬家と一条家なのだから。

そもそも学生の男女が二人で出掛けていることすら目立つ。
人の少ない喫茶店ならまだしも。

陽真は私が角を曲がるまでそこにいた。
本当に、優しい人だと思う。

ーーいや、思ってしまう。

風が吹く。
少しだけ、冷たい。

この時間が、どこまで続くのかは分からない。
それでもーー

そう考えてしまうことが、少しだけ怖かった。

そしていつの間にか、家まで着いていた。