君のほうがうまく笑う

 教室に入ると、そいつは姿を消した。
 …ようやくイヤホンを外せる。

 さっきまでイヤホン越しにもうっすら聞こえていた声。
 まだ喋り続けているように感じたが、それもすぐに消えた。

 僕は小さく息を吐き、席に座った。

 まだ人が疎らにしかいない教室。
 この時間にくるやつは、大抵、勉強してるか本を読んでいる。

 運動部の朝練の掛け声が騒がしく思えるくらい、ここは静かな空間を保っていた。



「……、……くん、(みや)くん」

 ふと名前を呼ばれ、肩を叩かれた。
 すぐに後ろを振り返るが、…誰も、いない。

「こっちだよ、宮くん」

 僕の机の前に立ってそう言ったのは、クラスメイトの内藤(ないとう)さんだった。

「後ろから声がした?」

 軽く微笑んでそう言われ、僕は何も言えなかった。

「…何か用?」

 眼鏡を指で持ち上げる。

「私たち今日、一緒に日直だよ。職員室に行かないと」

 ーーそういえば。
 黒板の右端をチラ、と確認した。

「ごめん。行こうか」

 僕は読んでいた本を置いて、席を立った。

 教室を出る間際、自分の机に目をやる。
 文庫本の表紙が微かに揺れ、挟み込んだはずのしおりも斜めにはみ出ていた。

 奥では教室のカーテンがふわりと舞った。