消える僕らの境界線

 ひたすら無視を貫き、駅を抜けた。
 学校へと続く桜並木。
 新緑に染まりつつある葉の隙間から、朝の光が降り注いでいる。

 僕は暫く歩き、周りに人がいないことを確認してから声を発した。

「30分だけなら貸してもいい」

 念のため、口元を手で隠す。
 ひとりで喋ってると思われたら、堪らない。

 そいつは「え!ガチ?」と僕の顔を覗き込んだ。

 その瞬間。
 風もないのに道路の桜が舞う。

 僕は歩きながら、思わずそいつの反対側に顔を傾けた。
 ぶつかるはずもないのに。
 

「…ただし、放課後にしてくれないか。これから学校だから」

「っしゃー!さすが眼鏡くん」

 そいつは拳を空へ突き上げた。
 僕の肩も一瞬上がりかけて、つい舌打ちをする。

 能天気そうだけど、どうやら意思が強いみたいだ。

 だけど別にいい。
 小さい頃からこういう体質だった。
 慣れている。
 30分で消えてくれるなら、マシな方だ。


「何食おうかなー、やっぱラーメンかなー」

 そう言って、そいつは両手を後頭部で組みながら歩く。

「1000円以内にしてくれよ」

 僕はそれだけ言って、耳にイヤホンを押し込んだ。

 何か聞こえた気がして、チラ、と視線を向けるとそいつは二度、口を大きく開けた。
 奥の景色が透けて見え、思わず眉間に皺が寄る。
 同時に腕に鳥肌が走った。
 こういうのだけは、慣れない。

 おおかた、「ケ」「チ」とでも言われたんだろう。

 幽霊に1000円も使うんだ。感謝してほしい。

 ……それもおかしな話か。
 

 僕はスマホのボリュームをいつもより上げた。


 今日は、音が途切れてばかりだ。