得点係でやり過ごす予定だった。
僕は、なぜかゼッケンを被ってコートの中にいる。
「志島、とにかく止まるな。動け!」
言ったのは同じ色のゼッケンの佐渡。
雑なアドバイスと共に、僕の背中をバシッと叩いた。
「叩くな…」
僕はズレた眼鏡を戻す。
団体競技は苦手だ。避けてきた。
突っ立ったままの僕をよそに、試合開始のホイッスルが鳴った。
ボールが佐渡の手に渡り、一斉に走り出す。
僕は少し後ろから追いかけた。
「志島!もっと中に入れ!ほい!」
佐渡が僕に向かって押し出したボールは、勢いよく回転しながら飛んでくる。
「ぐ…」
ボールが腹に重く響いた。
素人にバスケ部のパスをする奴があるか。
僕はパスを出す相手を探した。
誰に……
全員が、こっちを見ている。
「……っ」
思わず、動きが止まる。
これだ…この視線が、苦手だ。
スッと手からボールが抜き取られた。
「あ」
「ぉおい!」
佐渡が叫んだ。
「…すまん」
ステージで、あいつが腹を抱えて笑っている気がした。
「ほい!」
また佐渡が僕にボールをよこす。
「なんで、こっちに……」
その瞬間、なぜか視線があいつを捉えた。
背骨を伸ばし、屈伸をしている。
「志島!止まるなよ!」
佐渡の声がする。
ボールを持つ手に力が入った。
ステージ上であいつが、二回、高くジャンプした。
瞼が勝手に落ちる。
一瞬、開きかけたが、ぐっと閉じた。
——さっさと、来い。
ふわ、と冷気に包まれる。
「行ってきまーす」
——だから、何だその挨拶、
指先に電気が走り、呼吸が浅くなった。
目を開けた瞬間。
もう、自分の意思では動けなかった。
「まかせな、さい!」
あいつが言った。僕の声で。
佐渡が目を見開いたのが見え——意識が飛んだ。
「——…、志島!ナイシュー!」
遠くで佐渡の声。
クラスメイトが、沸いている。
佐渡のでかい右手が、僕の右手を叩く。
渇いた音が響いた。
「お前、出来るじゃねーか!」
佐渡が首にじゃれつく。
汗が、気持ち悪い。
「あ…、あぁ」
僕は、痺れの残る右手を見つめた。
…多分、上手くやったんだろう。
右手を握りしめると、微かに震えた。
どこを走った?
今のシュートは、どう打った?
……思い出せない。
「志島!また行くぞ!」
佐渡の声に、体がビクッと反応した。
ボールが腹に刺さる。
次は…どうするんだ?
右手は軽いのに、足が重い。
動かない。
ドリブルしようとしたボールは、僕のつま先に当たって転がった。
「……」
隣のコートから、女子の笑い声がした。
「志島ー、お前意外と欲しがりだな」
佐渡が笑う。
「……悪い」
ダメだ。
誰とも、目を合わせられない——
ほんと、つまねー奴だな?
どこかで、言われた気がした。
空気を含んだ足音だけが、ついてくる。
僕の足が止まりかけるたび、数歩だけ、動かされた。
「ほら、走んねーと眼鏡くん。イチ、ニ」
「やめろ」
口元を隠す余裕なんて、無い。
ボールは、僕の目の前に転がる。
「ビッグチャーンス」
「……うるさい」
つい、走った。
引っ張られるように。
「あー遅い遅い」
「黙っ…れ、」
その瞬間、踵が浮く。
身体のコントロールを完全に失った。
ボールを短くバウンドさせたのは、僕の右手。
だけど——僕ではない。
「 もーらい 」
僕の声が言った。
途端にまた、意思が途切れた。
「——…ナイシュー!!フゥー!」
気付けばネットが揺れている。
途切れては——戻る。
……何だこれ。
ドリブル。
足がもつれた瞬間。
体が強張る。
——来ない
さっきみたいに“奪われ”ない
…は?
「志島!来てる来てる」
佐渡の声。
いや無理だろ、これ…あいつ、
「呼んだ?」
——内側から声。
頭の中で、あいつが笑った。
視界がブレた。
遅れて——
“僕の手”が、こぼれかけたボールを勝手に掬った。
途切れる——
「スリー!!」
誰かが叫んだ。
意識の隙間で、勝手に腕が上がる。
音が飛び、
視界が点滅する。
誰だ?
どっちだ?
荒い呼吸で、眼鏡が曇った。
ボールが弧を描き、ネットを揺らす。
隣のコートの黄色い歓声。
僕に駆け寄るチームメイト。
腕が、ダラリと垂れた。
——おまえは、誰だ?
僕は、なぜかゼッケンを被ってコートの中にいる。
「志島、とにかく止まるな。動け!」
言ったのは同じ色のゼッケンの佐渡。
雑なアドバイスと共に、僕の背中をバシッと叩いた。
「叩くな…」
僕はズレた眼鏡を戻す。
団体競技は苦手だ。避けてきた。
突っ立ったままの僕をよそに、試合開始のホイッスルが鳴った。
ボールが佐渡の手に渡り、一斉に走り出す。
僕は少し後ろから追いかけた。
「志島!もっと中に入れ!ほい!」
佐渡が僕に向かって押し出したボールは、勢いよく回転しながら飛んでくる。
「ぐ…」
ボールが腹に重く響いた。
素人にバスケ部のパスをする奴があるか。
僕はパスを出す相手を探した。
誰に……
全員が、こっちを見ている。
「……っ」
思わず、動きが止まる。
これだ…この視線が、苦手だ。
スッと手からボールが抜き取られた。
「あ」
「ぉおい!」
佐渡が叫んだ。
「…すまん」
ステージで、あいつが腹を抱えて笑っている気がした。
「ほい!」
また佐渡が僕にボールをよこす。
「なんで、こっちに……」
その瞬間、なぜか視線があいつを捉えた。
背骨を伸ばし、屈伸をしている。
「志島!止まるなよ!」
佐渡の声がする。
ボールを持つ手に力が入った。
ステージ上であいつが、二回、高くジャンプした。
瞼が勝手に落ちる。
一瞬、開きかけたが、ぐっと閉じた。
——さっさと、来い。
ふわ、と冷気に包まれる。
「行ってきまーす」
——だから、何だその挨拶、
指先に電気が走り、呼吸が浅くなった。
目を開けた瞬間。
もう、自分の意思では動けなかった。
「まかせな、さい!」
あいつが言った。僕の声で。
佐渡が目を見開いたのが見え——意識が飛んだ。
「——…、志島!ナイシュー!」
遠くで佐渡の声。
クラスメイトが、沸いている。
佐渡のでかい右手が、僕の右手を叩く。
渇いた音が響いた。
「お前、出来るじゃねーか!」
佐渡が首にじゃれつく。
汗が、気持ち悪い。
「あ…、あぁ」
僕は、痺れの残る右手を見つめた。
…多分、上手くやったんだろう。
右手を握りしめると、微かに震えた。
どこを走った?
今のシュートは、どう打った?
……思い出せない。
「志島!また行くぞ!」
佐渡の声に、体がビクッと反応した。
ボールが腹に刺さる。
次は…どうするんだ?
右手は軽いのに、足が重い。
動かない。
ドリブルしようとしたボールは、僕のつま先に当たって転がった。
「……」
隣のコートから、女子の笑い声がした。
「志島ー、お前意外と欲しがりだな」
佐渡が笑う。
「……悪い」
ダメだ。
誰とも、目を合わせられない——
ほんと、つまねー奴だな?
どこかで、言われた気がした。
空気を含んだ足音だけが、ついてくる。
僕の足が止まりかけるたび、数歩だけ、動かされた。
「ほら、走んねーと眼鏡くん。イチ、ニ」
「やめろ」
口元を隠す余裕なんて、無い。
ボールは、僕の目の前に転がる。
「ビッグチャーンス」
「……うるさい」
つい、走った。
引っ張られるように。
「あー遅い遅い」
「黙っ…れ、」
その瞬間、踵が浮く。
身体のコントロールを完全に失った。
ボールを短くバウンドさせたのは、僕の右手。
だけど——僕ではない。
「 もーらい 」
僕の声が言った。
途端にまた、意思が途切れた。
「——…ナイシュー!!フゥー!」
気付けばネットが揺れている。
途切れては——戻る。
……何だこれ。
ドリブル。
足がもつれた瞬間。
体が強張る。
——来ない
さっきみたいに“奪われ”ない
…は?
「志島!来てる来てる」
佐渡の声。
いや無理だろ、これ…あいつ、
「呼んだ?」
——内側から声。
頭の中で、あいつが笑った。
視界がブレた。
遅れて——
“僕の手”が、こぼれかけたボールを勝手に掬った。
途切れる——
「スリー!!」
誰かが叫んだ。
意識の隙間で、勝手に腕が上がる。
音が飛び、
視界が点滅する。
誰だ?
どっちだ?
荒い呼吸で、眼鏡が曇った。
ボールが弧を描き、ネットを揺らす。
隣のコートの黄色い歓声。
僕に駆け寄るチームメイト。
腕が、ダラリと垂れた。
——おまえは、誰だ?



