君のほうがうまく笑う

「お前、そっちの人なんだ?」


 学校へ向かう途中。
 地下鉄。
 吊り革に右手を伸ばし、左手にはミステリー小説。

 少し丸まった僕の背後から、そいつは顔を出した。

 一瞬、電車の窓にうつった僕たちの姿に目を向ける。

 ああ、またか。

 そう思って本に視線を戻した。

「おい、無視するなって」

 僕は返事をしないし、顔も上げない。

 けれどそいつは右から左から、何度も顔を覗いてくる。

「おーい。頼むよ。マジで腹減った」

 でかい声。
 本の内容が全く頭に入ってこない。

 目の前のじいさんも、隣のサラリーマンも、微動だにしない。




「30分でいいからさ。貸してくれよ、お前の体」



 この声が聞こえる人間は、多分、ここには僕しかいない。