夏が囁く



【理】(り)
ことわり。筋道。
「王(玉)」と「里(筋・区切り)」から成り、玉の筋目を整えることから、物事の筋道や整った道理を意味する。


【田辺勇が綾川ミツへかけた電話】

【2004年8月 21歳】

「あ、もしもし。綾川さんのお宅ですか?

……婆ちゃん?元気?俺だよ、俺、俺。田辺のジイちゃんところの勇だよ。元気してる?うんうん。やだな、婆ちゃん、俺は相変わらずだよ。

いやー、宗介の法事以来だね。えっ?……あはは。
そっか。ごめん、ごめん。この話はやめておこっか。

そうそう、それでさ。ちょっと婆ちゃんに頼みたいことがあってね。

実は、俺の大学の後輩がさ。婆ちゃんの住んでいるN町に興味があるらしくてさ。でもほら、近くにホテルも民宿もないだろ?

で、つい『そういえば俺の親戚がそこに住んでるわ』って言っちまったんだな。N町で食堂を営んでいる婆ちゃんの話をさ。

そしたらそいつ、寝泊まりするだけでいいから世話になりたいって……

食事の支度とかはいいんだよ、泊めるだけ。

いやぁ、本当に申し訳ない。でも、そいつはめっちゃいい奴だよ。勿論、謝礼は十分に払うって。
 
それに、そいつ、昔住んでた故郷らしくてさ、N町が。

ぜひ、そこで思い出に浸りたいんだって。

だからどうかな……婆ちゃんさえ、よければ……

うわぁ!マジで?ありがとう!うん、いい奴だよ。俺より一つ年下なんだ。うん。きっと婆ちゃんも気に入る。

それに、婆ちゃんのこと、たくさん助けてくれると思うよ。いい奴だから、すごく。

うん、うん……。そうだ、名前言ってないよね。そいつの名前はね……」