虐げられた真珠乙女の逆転婚~冷徹な夫が探し求めたのは身代わりで嫁いだ私でした〜

「素敵な友禅ね」
「ありがとうございます」
 静香は征一郎に教わった通り、指先まで神経を尖らせて優雅な一礼を返す。
 
「黒川夫人のたたき染めの友禅もお美しくて、思わず見惚れてしまいます」
「まあ! お若いのに、これがお分かりに?」
 黒川夫人は嬉しそうに顔をほころばせ、袖を持ち上げながら見せてくれた。
 夫人の着物は一見すると控えめな斑点模様。
 だが、それは職人が竹の棒で染料を細かく叩き落として作る気の遠くなるような手仕事の結晶だ。
 
「絵でしか拝見したことがなかったので、実物にお目にかかれて光栄です」
 友禅の着物を仕立てる時、静香は呉服屋で友禅について学ばせてもらった。
 金糸の華やかな友禅だけではなく、職人の手描き友禅の特徴や武家文化を背景とした渋みの着物まで。
 呉服屋に見せてもらった絵では素晴らしさがよくわからなかったが、実物を見た瞬間、芸術作品のようだと思った。
 
「最近のお嬢様方は派手な金糸や刺繍ばかりに目を奪われて、こうした『職人の呼吸』を感じる意匠を蔑ろになさるのに……」
 夫人は鋭い視線を麗華へと向ける。
 
「貴女が先ほど『地味』と嘲笑った友禅、そして私が纏うこのたたき染め。これらがいかに高潔な精神で貫かれているか、貴女には一生理解できないのでしょうね」
「そ、そんな……! 私はただ……!」
 麗華は顔を真っ赤にし、助けを求めるように父を見る。
 だが父は黒川夫人の威厳に硬直したまま動かなかった。

「黒川夫人に妻の審美眼を褒めていただくとは。夫としてこれ以上の喜びはありません」
 征一郎は静香の腰に手を添え、守るように引き寄せる。
 静香に微笑んだ後、征一郎は静香の父を睨んだ。

「さて、間宮当主。あなたには聞きたいことがある」
 征一郎は胸ポケットから数枚の書類を取り出し、父と麗華の前に出した。

「負債の肩代わりと、事業再建のための資金援助は確かに約束した。だが、その娘のドレス代や新たな賭博の借金の請求書がこちらに回ってくるのはどういうことか」
「……え? 賭博?」
 驚いた静香は征一郎から奪うように書類を受け取ると、上から何枚も書類を見ていく。
 それは確かに賭博場、ドレス店、呉服屋、装飾品からの請求書の束だった。
 
「こんなに……?」
 日付は静香が征一郎に嫁いだ後のものばかり。
 借金の清算をしてもらったばかりだというのに、贅沢三昧だった実家の行動に静香の血の気が引いた。