虐げられた真珠乙女の逆転婚~冷徹な夫が探し求めたのは身代わりで嫁いだ私でした〜

 これはどういうこと?
 なんなの?
 背中から回された征一郎の腕はびくともしない。
 むしろ、その太い腕の重みが静香を逃がさないという確固たる意志のように感じられた。

「まだやることが」
「早く寝ろ」
 征一郎の静香の肩を抱き寄せる力がわずかに強くなる。
 
 書類上の冷徹な夫。
 そんな彼がなぜ特殊真珠が作れるかもしれない今日に限って、これほどまでに執拗に眠らせようとするのか。
 静香は窓の外で輝く満月を見つめながら、逃げられない腕の中でじっと固まるしかなかった。
 
 やがて、温かな体温に包まれた安心感のせいなのか、静香の意識は深い闇へと落ちそうになる。
 0時まで起きていなくてはならないのに。
 抗うことができないまま、静香は結局意識を手放した。
 
    ◇

 腕の中の身体が緊張を解き、静かな寝息を立て始めた頃、征一郎は閉じていた瞼をゆっくりと開けた。

「莫迦な女だ。自分の命を何だと思っている」
 征一郎は腕の中の細い肩が冷えないようにそっと布団をかけ直す。
 静香の白く透き通るような指先に、征一郎は指を絡めながら溜息をついた。
 
 かつて自分を救ったあの小さな真珠が、彼女のどれほどの「命」を削って生み出されたものか。
 それを聞かされたとき、幼いながらも征一郎は自分自身の血が凍りつくような心地がした。
 
「俺が生きている限り、二度とお前に作らせたりしない」
 幼い頃、喘息で息をするのもままならず、空気が良い別荘で過ごしていた俺の命を救ってくれたのは、他でもない静香の特殊真珠だ。
 あの日から俺の命は、お前の犠牲の上に成り立っていると言っても過言ではない。
 
「……お前はもう覚えていないだろうな」
 特殊真珠の存在は絶対にバレてはいけない。
 世間にも、静香の実家にも。
 診療所とあの親子には口止めをしたが、果たして彼らは約束を守るかどうか。

「守らせてくれ」
 あの日、診療所で絶望に満ちた瞳を見せた静香を縛り付けているのは、他でもない「特殊真珠」という呪いだ。
 ならば、その呪いごと、自分が静香を檻に閉じ込めて守り抜くしかない。

 征一郎は静香を逃がさないように、その細い身体を強く引き寄せた。