虐げられた真珠乙女の逆転婚~冷徹な夫が探し求めたのは身代わりで嫁いだ私でした〜

 ようやく今月の満月の日が訪れた。
 雲がやや多く、0時の天気は心配だが、とりあえず起きているしかない。
 静香は女中に濃いめの紅茶を頼み、読書をしながら0時を待つことにした。

 初めて特殊真珠を作ったのは5歳の時。
 あのときは2ミリもない小さなものが限界で、しかも作った翌日から1週間ほど寝込み、祖母だけが心配してくれた。
 それなのに見ず知らずの男の子にあげてしまい、迎えに来た祖母にこっぴどく怒られたのだ。

 そして2個目の真珠は診療所にきた少年にあげてしまった。
 先月は雨。
 だから今月こそは作りたいのに、空はだんだん曇ってきている気がする。

「今月も無理なのかな……」
 静香は窓から月を眺めながら思わず呟いた。

 突然聞こえた扉が開く音に、静香の心臓が跳ねる。
 静香は慌てて座り直し、乱れた裾を整えた。

「こんな時間まで何をしている?」
「……読書です」
 静香は開いたままの本にそっと手を置きながら誤魔化す。
 夜着に着替えた征一郎は襟元まできっちりしている普段とは違い、ラフな着物姿。
 静香は見慣れない征一郎の姿に戸惑った。
 
「何を読んでいた?」
「え……あ、その……」
 横に座った征一郎が静香の本に手を伸ばす。
 頭を使っていないと眠ってしまうと思い、西洋の詩集を選んでしまったことを静香は今更ながら後悔した。

「随分と難しいものを読んでいるのだな」
 征一郎は本を奪い取るのではなく、静香の指が触れているページを覗き込むように顔を近づけてくる。
 
「『今月も無理』は、この詩の一節にでも書いてあったのか?」
 しっかり独り言を聞かれてしまっていた静香の心臓がドクドクと脈打つ。

 この人は真珠を取りに来たのだろうか?
 それとも作り方を見ようと思ったのだろうか?
 どちらにしてもこんな時間に来るのはおかしい。
 静香は返答に困り、口をつぐんだ。

「これ以上、文字を追う必要はない。寝るぞ」
 征一郎に立たせられた静香は、そのまま流れるような動作で寝所の布団へ導かれる。

 書類上の夫。
 その彼が、今、自分と同じ寝所へ入ろうとしているのはなぜ?
 しかも今日は満月だ。
 月に1回しかない特殊真珠を作るチャンスなのに。

「あの、今日は」
「何を怯えている?」
 征一郎は静かに有無を言わせぬ響きで告げると、静香を抱きかかえるようにして布団に入った。