虐げられた真珠乙女の逆転婚~冷徹な夫が探し求めたのは身代わりで嫁いだ私でした〜

 その奇跡を成すための条件は、あまりに苛烈で孤独な作業だった。
 
 満月の夜、深夜0時から1時の間のみ。
 月光を遮る雲の影は許されず、完成の瞬間まで剥き出しの肌に月光を浴び続けなければならない。
 儀式の間は一切の「声」を禁じられ、外界を映す「瞳」を閉ざす。
 指先を銀の針で突き、一滴の鮮血を月光に捧げ、己の命を削りながら霊力を練り上げること。

 それが、服用すれば万病を払い、持てばあらゆる魔を退けると言われている『特殊真珠』を産む唯一の方法だ。
 
「……っ」
 冷え切った別邸の寝室で、静香は溢れそうになる悲鳴を喉の奥で押し殺した。

 心臓が悲鳴を上げ、霊力を吸い取られた指先がだんだん感覚を失っていく。
 こんな真冬に窓を全開にして月光を浴び続けるのは、死に等しい所業だ。
 それでもこの真珠があれば、一人で生活していく資金にできるだろう。
 
 「お飾り花嫁」として蔑まれ、冷え切った食事を与えられるだけの日々。
 姉の身代わりで嫁がされ、夫となった公爵、嵯峨征一郎からは一度もまともに顔を見られたことさえない。
 彼にとって私は、屋敷の隅に置いておく「不必要な調度品」に過ぎないのだ。
 
 何粒あれば、私は自由になれるだろうか。
 誰に売れば、利用されずに正規のお金が手に入るだろうか。
 
 手のひらの上で転がる真珠は、持ち主の血と涙を吸ったとは思えないほど冷たく残酷なまでに美しい。
 静香は感覚が失せた指先で、温もりを求めるように自らの肩を抱きしめた。