無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


バシンッ!という乾いた音が玄関に響、私はそのまま床に倒れ込む。突然の出来事で体が上手く反応出来なかった。

……まぁ、反応できたとしても私はお姉様の行動を避けることは許されないのだけど。

「家の外に出たら“女中”という設定にしたの忘れたの?本当にこれだから人形は聞き分けのならない、いらないガラクタね」

「……申し訳ございません……申し訳、ございません……」

私はこれ以上お姉様の怒りに触れないように謝った。私は感情がないけど痛いものは痛い。

なるべく穏便に済ませたいところだ。

「……あ、あの……!」

「何よ、今取り込み中よ!」

床に倒れ込んでいるとほかの女中が恐る恐るお姉様に声をかけた。鬼のような形相のお姉様を見て、怯えた表情をした彼女は蚊の鳴くような声でこう言った。

「お、大旦那様が、おふたりを呼んでいらっしゃいます……」

「お父様が?」

彼女はこくこくと頷くとそそくさとこの場を去っていった。私とお姉様だけ取り残されたこの空間はまさに地獄そのものだった。

「……お父様が呼んでるならここは一時休戦ね。人形、早く立ちなさい」

「は、い……」

まだヒリヒリ痛む頬を無視してお姉様の後ろをついて行った。私には拒否する権利はない。

ただお姉様の使用人として働く人形。

重たい荷物を持ちながら、静かに息を潜めて屋敷の中を歩いた。


「悪いな、急かしてしまった」

お姉様の後ろをついて行くといつの間にかお父様のいる部屋にいた。私は部屋の隅に一人で座る。

座布団も何も用意されていない畳部屋の床は固く、冷たく、痛かった。

「大丈夫よ。ちょうど帝都から戻ったところだったの。お母様もいるなんて珍しいわね。なんの用かしら」

「私がお前たちを呼んだのは……縁談の話がまとまったからだ」

お姉様は目を輝かせながらお父様に聞いた。お母様もいるということはかなり大事な話なのだろう。

そう思って聞いていたのだが、予想は当たった。まさか縁談の話とは。

「あら、そうなの!縁談の話はもちろん私に来てるわよね!?」

今か今かと格好の良い男性を旦那に持ちたいと待ち続けていたお姉様。興奮が止まらず、身を乗り出して聞いている。

私をちらっと見て勝ち誇ったように笑った。

「……そうだ。ただ、相手の家がな」

「何よ!もったいぶらないで話してよ。相手はどんな方なの?」

興奮するお姉様とは違って表情を固くするお父様。