無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


すると、とんと背中に何かが当たる感覚がした。ハッとして振り返るとそこにはにっこりと微笑みながら私を見下ろすお姉様がいた。

その笑顔にぞくっと背筋が凍る。
……まずい。
このままだと、またお姉様が……。

「人形さん?いつも言ってるわよね?外の人とは話すなと」

「も、申し訳ございません……」

お姉様は私を睨むとぱちん!と指を鳴らした。それは一瞬の出来事で、瞬きをした瞬間、向こうから先程話した男性が歩いてくるのが見えた。

「お前は引っ込んでな」

いつになく怖い声、表情で話すお姉様。その言葉通り、私は大人しく後ろに下がる。

「……失礼、雲龍家の屋敷はどちらになるか、分かりますか?」

男性がお姉様に近づくと。私に先程話しかけた通りの言葉を言っていた。周りをよく見ると景色は変わらないが人は数分前と同じことをしている。

「はぁい!なんでしょうか?私、雲龍紅葉と申します。良ければ我が家にご案内しましょうか?」

「ほんとですか。助かります。いやぁ、まさかこんなとこに雲龍家の娘がいるとは。光栄です」

男性は私とちらっと目が合うと不思議そうに首をかしげた。

「そちらのお嬢さんも雲龍家の方ですか?」

「いやいや、あの子は雲龍家の女中です。今日は私のお手伝いできてますのよ」

お姉様は意気揚々と説明をして、男性の隣を歩き始めた。
……男性は私のことを覚えていない。

私はそっと息を潜めるように2人の後ろを着いていく。

「そうでしたか。どうか、案内お願いします」

お姉様は勝ち誇ったかのようにニヤリとほくそ笑む。
これが、お姉様の異能の力。雲龍家の長女だけあって効果は抜群だった。

お姉様の異能は時を戻すことのできる『時戻し』という力を仕えていた。数分前から何十時間も時を戻せる。

指の音が合図で、先程も数分前に戻された。周りの記憶はなくなるが同じ雲龍家の人間はこの力にかかっても記憶は無くならない。

だから私は数分前のことでも、男性の言葉覚えていた。

楽しそうに話す2人の後ろ姿。

男性の影はやけに激しく揺れており、少し不思議に思ったが。何も考えないようにした。


「ありがとうございました。助かりました」

無事に家に着き、男性は頭を下げて中に入る。お姉様は名残惜しそうに手を振っていた……が。

「あんた、何勝手なことしようとしてんだよ!」

ふと手が止まると鬼の形相で振り返り、私の頬に平手打ちした。