無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


私は思わず聞き返す。だって、自分に話があるなんて思いもしなかった。お姉様にならわかるが自分になんて。

「はぁ?なんで人形と一緒に話を聞かなきゃいけないわけ?別ではだめなの?」

そんな話になって一番怒ったのはお姉様だった。お父様にも遠慮なく意見を言えるお姉様は人一倍自分の意思が強い。

私を人睨みした後、お父様に甘えた声を出した。

「悪いが今回はふたりだ。わかったな?」

「……かしこまりました」

私はまた頭を下げた。お父様の言うことは絶対。今回ばかりはお姉様も渋々折れたようだった。

「お前の用事は以上だ。この部屋から出てけ」

「かしこまりました」

お父様と目が合ったかと思えば朝と同じような冷たい視線が帰ってくる。この家に無情の娘などいらない。

そう思っているのだろう。その意見だけは私以外の家族で一致していた。

そっと自分の姿を消すように音もなく部屋から出た。
自分が何のために生きているのか分からない。

なんで雲龍家の娘に生まれてきたのか分からない。

「……どうでもいいや」

今更こんなこと考えたってしょうがない。現実はそう簡単に変わらない。私はただ、命が尽きるまでお姉様の使用人として生きるだけ。

ただ、それだけ。

「人形がいるわ」

「ほんとね。近づかないようにしなきゃ」

部屋の外でぼんやりしているとほかの女中に目をつけられた。ひそひそと、でも私に聞こえるほどの声で話をしている。

そんな声では私に丸聞こえだと本人たちもわかっているはずだ。

居心地は良くないがこの場所から動くことはできない。

朝食が終わるまで廊下で待機してなければいけない。

冷たい床に腰をおろし、背中を丸める。ただひたすら時間が過ぎるのを待っていた。

***

「……失礼、雲龍家の屋敷はどちらになるか、分かりますか?」

「……わ、たし……ですか?」

その日の昼。
私はお姉様の買い物に付き添いで帝都に来ていた。

付き添いといっても荷物もちの要因だ。店の外でお姉様の買い物が終わるのを待っていると、ふと歳の若い男性に話しかけられる。

驚いた私は何を言っていいかわからなかった。

「え、と。雲龍家は……」

家族以外の人と話すのは久しぶりだった。私は頬を強ばらせ、固まってしまう。

「……大丈夫ですか?」

不思議に思ったのか私の顔を覗き込んで話しかける男性。その近さに思わず後ろに下がる。