無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


ーー時を司る異能の家系、雲龍家。

雲龍家には2人の娘がいた。ひとりは顔よし、異能のちからが膨大、器量よしの長女の紅葉。

もう1人はーー。

「“人形さん”。私のこのお着物、部屋に運んでちょうだい」

「かしこまりました」

笑わない娘がいた。その娘の名前は皐月。表情筋をピクリとも動かさず、淡々と仕事をこなす皐月はまさに“人形”のようだ。

笑わない、泣かない、騒がない。

次女の皐月はみんなから腫れ物を扱うかのように嫌われていた。
そんな次女とは反対に長女の紅葉はよく笑い、気丈に振る舞う。

雲龍家にとって自慢の娘だった。

「……本当に人形さんは笑わないわね。一緒にいて居心地悪い。用事が終わったならさっさと消えて」

「ーー申し訳ございませんでした。失礼します」

紅葉の着物を運んだというのに酷い言葉を吐き捨てられた皐月。
だけど皐月は何も言わない。
ただ、黙って頭を下げるだけだった。


「ほら、あの子よ。大旦那様の次女の皐月さん。噂には聞いていたけど、本当に感情がないわね」

「そうなのよ。うちの女中もみんな怖がっちゃって。あなたもあんまり近寄らない方がいいわよ」

皐月の周りでヒソヒソと話し声が聞こえた。どの内容も皐月の感情のことばかり。

皐月はちらっと女中達を見たあと、何事も無かったかのようにまた前を向いた。

「な、何なのかしら……」

「本当に怖いわね。よくまぁ、雲龍家の娘に生まれたこと」

その様子に驚きながらも女中は話すことを辞めなかった。

皐月はふと思う。
なぜ異能の名家ーー雲龍家に生まれたのかって?
そんなの、自分が一番聞きたいわよ。

自分の部屋にたどり着いた皐月は、力が抜けたようにその場に座り込んだ。

毎日毎日同じことの繰り返し。

私はきっといつまでもこの家の……主にお姉様の召使いとして生きていくのよね。この家から出ることは許されないもの。

皐月は、今年で17歳になる娘。

名家の娘なら縁談の話ひとつでも来てもいい時期なのに。

そんな話は一切なく、ただ時間だけがすぎていく。そんなこともあり、皐月は未来のことを諦めていた。

***

私の朝は、お姉様を起こすところから始まる。雲龍家の娘だと言うのになんでこんなことしているのかは自分が一番よくわかっていた。

「おはようございます、お姉様」

「……あら、人形がなにか喋ったわ。お母様、まだ人形は雲龍家に残っていますわよ」