無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


今まで自分のことに時間を使うなど許されなかった。私は雲龍家に住まわせてもらうためには家族に時間を使わなければいけなかった。

異能もなければ、教養もない。

何も出来ない娘は奴隷の様に働くしか出来なかった。

だけど……。
ここに来てからは自由になって、自分に使える時間も増えた。

そのことに気付けたのはたった今時雨様に言われた一言。この一言がなければ、私は一生自分に時間を使うことはなかっただろう。

「あ、りが……とうございます。ありがとうございます」

「お、おい。なんでここで泣くんだ。私は変なこと言ったか?」

時雨様の言葉を聞いたあと。
私は自然と涙を流していた。

今まで、自分のやりたいこと欲しいことを考える時間はなかった。感情を押し殺し、家族のために時間を捧げてきた。

だけどもう……我慢しなくていいのかな。

涙を流していると時雨様は驚いたような表情で私を見ている。その様子がなんだかおかしくて。

少しだけ、頬をあげようとした。

……でも。

『笑ってはいけないよ、皐月』

どこからか聞き覚えのある声が頭の中に勝手に流れてきた。
私……今、笑おうとした?

この……私が?

「今度はなんだ。泣いたかと思えば急に険しい表情をして」

「い、いえ……なんでもありません。お、お見苦しいとこをお見せして申し訳ございません」

呪いのような言葉が頭の中から離れなかった。
さっきの言葉は何……?

今の声は誰の?

私が笑おうとした瞬間に、なぜだか頬が強ばって動かなくなった。元々笑わないためあまり動かさないのだが今のはそれとはまた違った固まり方。

顔全体が……なにかに覆われたような、そんな感覚に陥った。

「お、おい。待て!」

私は時雨様から離れようと踵を返した。だけど時雨様に腕を捕まれこの場から動くことはできなくなった。

なんで……なんで、時雨様はこんな私に構うの。

「急にどうした?いつも変だが今はもっと変だぞ」

「……し、時雨様……。顔が……顔が……」

時雨様に見つめられ、思わず呟いた。
こんなことを話したところで無意味なことはわかっている。

無意味なこととはわかっていたが、私は時雨様に縋りたくなってしまった。

「……動かないのか?ちょっと待て」

「時雨……様?」

様子を見た時雨様は自分の方に私を引き寄せると。私の額に手を当て、目を瞑った。

すると。