無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


なぜ御影家の長男が雲龍家の娘と契約婚をしたがったのか。

なぜお姉様じゃなくて私が来ても御影家を追い出さなかったのか。

聞きたいことが山ほどあったがまだ何一つ知りたいことは聞いていない。そのせいもあってか今は恐怖心より好奇心の方が勝っていた。

「こ、れは……?」

キョロキョロと辺りを見渡していると、ふとひとつの本が目に入った。
その本はだいぶ古くて表紙もよれている。

余程大事にされてきたんだなと思える一冊だった。

「なんだろう……読めない」

「貴様、ここで何をしている。勝手に私の書斎に入るな」

表紙を1ページめくり、読もうとしたところで誰かに本を後ろから奪われた。後ろを振り向くとそこには私を睨みつける時雨様がいた。

私は慌てて頭を下げる。

「も、申し訳ございません……!」

……やってしまった。
私ったら、何勝手に人の部屋に入って、しかもものを物色しようとしたの。

自分のしたことに冷や汗が止まらなくて。
心臓がバクバクと大きな音を立てていた。

「……これを、読んだか?」

「え?」

頭を下げ続けていると時雨様がぽつりとつぶやく。

「だから、読んだのかと聞いてるんだ」

「い、いえ……読んでません。……というか、文字が……読めないんです」

てっきり怒られると思っていたのに予想外の質問で驚いた。私は時雨様の質問に聞かれていないことまで答えてしまう。

実は私には全く教養がない。
学び舎にも行ったことないし、家で習い事もしたことない。

それは私が雲龍家で“必要とされてないガラクタ”だったから。

お姉様はありとあらゆる教養を叩き込まれ、習い事もたくさんしていた。才色兼備とはまさにお姉様のこと。

文字すら読めない私は……御影家に嫁に来る資格などない。

「……悪かった。言いたくないことまで言わせたな。読んでないならいい」

どんなことを言われるのだろうとぎゅっと手を握っていると、思いもよらない言葉が返ってきて。

時雨様を見つめた。

「お、怒らない……んですか?」

「なんで私がそんなことで怒るんだ。別に私は気にしない。お前が気になるというなら家庭教師を呼んでもいい。お前はもう自由なんだ。好きなこと、やりたいことを見つけたらどうだ?」

「やりたいこと……」

まさか時雨様にそんなことを言ってもらえるなんて。こんなこと誰にも言われたことない。

自分のために、時間を使っても……いいのだろうか。