無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


御影家に来て一週間がたった。
だいぶここの生活にも慣れてきて、色々と覚えだした頃。

中庭の掃除をしていると、女中の……黒羽さんが私から蜂起を奪い取った。彼女は初日に私を案内してくれた御影家専属の女中。

なんだかんだ私のお世話係になったとかで毎日のように顔を合わせては身の回りの事を手伝ってくれている。

歳もそこまで離れていなくて、話しやすく、距離感も心地よい間柄だった。

「だ、大丈夫ですよ。このくらいさせて下さい。ここに来てからあまりやること無くて、退屈してたんです」

そして、ひとつ私の中で大きな変化があった。何故かここの人には緊張することなく話すことができた。

最初こそは緊張していたけど、1日目を乗り越えた辺りから全然何も感じなくなって。

その変化が私の極度な人見知りが薄れていくのを感じた。

「それでも……。時雨様の花嫁様にこんなことさせられません。掃除とかはいいので、時雨様のそばにいてあげてください」

「でも……」

黒羽さんは譲らなかった。
世間の花嫁はおそらく、自分の趣味や家のことをして過ごしているのだろう。

だけど自分には教養や趣味はなければ、家の仕事もない。

ここは御影家でこの家のことは出働く女中の仕事。

「花嫁様、昼食まで時間がありますのでお部屋で休んでてください。ここは私がやっておきます」

黒羽さんにグイグイと背中を押され、圧に負けた私は掃除を諦めることに。

何もやることがなく部屋に閉じこもるのもあまり良くないと思ったけど。みんなに迷惑がかかるし、今日のところは大人しくしておこう。

「わかりました。お願いいたします」

……さて、どうしようか。

掃除が無くなるとだいぶ時間を持て余す。実家の方ではとにかく仕事第一優先で動いていたから、じっとしているのは苦手だ。

「……ここは、時雨様の書斎……?」

廊下をうろうろしていると、ひとつの部屋に目が止まった。この襖の先には初日に挨拶しにいった時雨様の書斎がある。

今時雨様はお仕事で家にはいない。

ということはこの部屋には誰もいない。

時雨様が一体どんな御方か気になり始めていた私は好奇心に勝てず、そっと書斎の襖を開けた。

「……うわぁ……書類と本がたくさん」

書斎をじっくり見たこと無かったので思わず声が出てしまった。
時雨様は仕事のことや雲龍家との婚約についてまだ話してはくれなかった。